日銀がマイナス金利の深掘りの可能性を示唆している。理論的には効果が薄い政策だが、これを行おうとするのは、偽薬効果を狙ったものといえそうだ。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
マイナス金利になって銀行が苦しむのは
日銀への利払いが原因ではない
量的緩和政策の結果として、銀行は巨額の当座預金を日銀に預けている。そこで、「銀行が日銀に預けている預金の金利がマイナスだ」と聞くと、銀行が日銀に巨額のマイナス金利を支払っているように聞こえるが、そうではない。
10月時点で、銀行等全体で見ると、日銀に預けている当座預金は約389兆円あるが、そのうち208兆円にはプラス金利が適用されており、マイナス金利が適用されているのは22兆円にすぎない。
しかし、これが銀行の収益を大きく毀損している点には留意が必要である。銀行としては、「日銀に預けてマイナス金利を取られるくらいなら、低い金利で貸し出しをしてライバルから顧客を奪う方がマシだ」と考えるからである。ライバルも、同じことを考えて低い金利で貸そうとする。そこで、日銀への当座預金の金利が0%からマイナス0.1%に引き下げられたことを受けて、銀行の貸出金利は(厳密ではないが、考え方として)0.1%低下した。
問題は、貸出金利の0.1%低下が、景気の拡大にそれほど役立っていないことだ。企業は設備投資を決断するときに、様々な要因を総合的に判断するのであって、「借入金利が0.1%低下したから設備投資をしよう」と考える企業は決して多くないからである。
一方で、銀行への打撃は決して小さくない。そもそも貸出金利は平均1%弱しかないのに、それが根こそぎ0.1%低下するとすれば、コストをカバーするのは一層困難になるだろう。
貸出金利の引き下げによって貸出残高が増えるなら良いが、それも期待薄といっていい。企業の設備投資はそれほど増えず、他業態からの顧客のシフトもそれほど見込めないからだ。「牛丼チェーンの値下げ競争がラーメン業界から顧客を奪ってくる」ようなことは起きないのである。つまり、銀行による貸出金利の引き下げは、銀行相互の「不毛な安売り競争」を招くだけなのだ。