事故やトラブルを想定したフレームづくりが大事

 こうした普段起こり得る(想定内の)事態については、前もって弁護士などに相談して、社会通念上の妥当な見舞金額や、誰が支払いの権限を持つかなどを決めておくことです。金銭目的の悪質クレーマーほど、規定やしくみ上、これ以上、金額をアップさせることが難しいと判断すれば、あっさりと引くものです。

 ご紹介したケースでも、瑕疵や過失に対するフレームがこの旅館にあったとしたら、50万円も支払わされることにはならなかったでしょう。たとえば、次のような取り決めをしておけばよかったのです。

◎「館内の事故に関して、当社に過失があると判断した場合の見舞金」の規定
〈診断結果:全治3日以内〉
見舞金1万円、交通費・医療費当社支払い。※権限/支配人
〈診断結果:全治1週間以内〉
見舞金3万円、交通費・医療費当社支払い。※権限/支配人
〈診断結果:通院1週間以上〉
見舞金5万円、交通費・医療費当社支払い。※権限/常務
〈診断結果:要入院〉
見舞金については、弁護士、社長と相談のうえ決定。※権限/常務
〈診断結果:要入院のほか、休業補償などの要求がある〉
弁護士、社長、常務で話し合いのうえ、状況に応じて対応。※権限/社長

 このようなフレームがあれば、病院で診断が出た時点で、「これは当社からのお見舞いです」と、心から謝罪しながら見舞金の1万円を出すことができたでしょう。金銭の要求をほのめかされる前に、先手を打っていれば、悪質なクレームに発展せずに済んだかもしれません。相手は、隙があると感じたからこそ、金額を吊り上げてきたのです。

 仮に金額が少ないとゴネられても、「当社の見舞金はこのように決められています」と説明し、それでも納得してもらえなければ、お金は渡さないことです。そのうえで、「当社の規定でお支払いする金額しか、お出しできません。もしご納得いかなければ、弁護士が対応いたします」と告げて、現場での話し合いを打ち切ります。

 その後、何かあったら、実際に弁護士に任せてください。悪質クレーマーからすれば、訴訟を起こすのは、費用と時間の無駄です。そもそも無理な要求をしていることを自覚しているので、勝ち目がないことも承知しています。ほとんどの場合、弁護士が出てきた時点で決着となります。

 まとめると、ポイントは以下のとおりです。

・トラブルに応じた「解決金の上限」と「支払いの権限者」を決めておく
・解決金は相手から要求される前に差し出す
・解決金のアップを要求されたら法に基づいて対応する(弁護士に任せる)

 このようなフレームを作っておき、前記のとおり、絶対に特別扱いはしないようにしてください。前例を作ってしまうと、別の悪質クレーマーのターゲットにされたときに、はねつけるハードルはさらに高まります。