山崎さんはそう胸の内を明かす。済生会横浜市東部病院の救命救急センターは、鶴見区唯一の救命救急センターであり、大量出血によるショック症状を伴う重症外傷など、他の救命救急センターでは対応困難な患者を受けれる「横浜市 重症外傷センター」も兼ねている。

済生会横浜東部病院・救命救急センター・センター長の山崎元靖さん
済生会横浜市東部病院・救命救急センター・センター長の山崎元靖さん Photo by H.K.

「亡くなる方もたくさんいらっしゃるのですが、そうした患者さんの最期に立ち会うたびに、これがご本人の望んでいた最期なのか、そうは思えないと葛藤することが、しばしばあります」

 意にそぐわないであろう死に方をしている人が、とても多いのだという。近年、人生のしまい方を、あらかじめ自分で決めて準備する「終活」が普及しているが、まさにこれから死のうというときに、本人の意思がちゃんと尊重される仕組みはまだ確立されていない。希望をエンディングノートに書くだけでは、全然足りないのである。

「病院では、ご本人が望む、自分らしい最期を迎えるのはむずかしいこともあるので、死期が近づく前から『このように死にたい』『こんな最期を迎えたい』といったことを決めておくべきだと思います」

 山崎さんが共感しているのは、2018年に亡くなった女優の樹木希林さんが、亡くなる2年ほど前に出演した宝島社の広告だ。有名な絵画をまね、水面に浮かぶ樹木さん。そこには「死ぬときぐらい好きにさせてよ」というキャッチフレーズとともに、こんなふうに死んでいきたいという死生観と「(日本社会は)いかに長く生きるかばかりに注目し、いかに死ぬかという視点が抜け落ちている」という広告主からのメッセージが書かれていた。

「どう生きるかは、どう死んでいくかと基本的に同じ。人生の最期には、個人の人生観や価値観がしっかり生かされるようでなければいけないと思います。

 人生の最期に、救急車を呼んでほしいと本当に思っている人は、そんなには多くないはずです。もちろん交通事故に遭ったときなどは別ですが。家族全員で、おじいちゃんの大往生を見守っていたような場合はどうでしょう。急いで救急車を呼ばなくてはと思うでしょうか。

 高齢者で、人生の最終段階に入っておられる方は、家族に静かに看取(みと)られたいと思っている人が多い。内閣府が行った調査でも、もし自分が治らない病気なら、自宅で最期を迎えたいと望む人が半数を超えていましたが、実際は自宅で亡くなっている人はわずか13%。ほとんどの人は病院・診療所で亡くなっています」

 家族の多くは、本人の願いを知ってはいても、いざそのときになると動転したり、持ち直すことを期待したり、親戚の圧力に負けたり、夜間に呼吸が止まったらどうするかといった詳細な打ち合わせをしていなかったり等々の理由から119番通報をし、到着した救急隊や搬送先の病院の医師らに「蘇生しないで」と、なってしまう。