愛する家族のことだからこそ、簡単には割り切れないのだ。

死者の胸がへこむほど押す
救急医の胸の内

「救急病院に搬送されたその先はどうなるのかも知っておいてほしい」と、山崎さんは言う。

 救命救急センターでは、止まった心臓を動かし、呼吸を取り戻すため、専門医療チームが待ち構え、心臓マッサージをしながら、人工呼吸をほどこす。「何もしないで」と頼まれても簡単にはそうはいかない。患者の生命を救うため、全力を尽くすのがセンターの使命だからだ。

「心臓マッサージも、ためらうことがあります。胸に手をあてて、5センチぐらいへこませるようにやるのが基本で、そうしないと心臓に力が伝わりません。相当な力が入るので、高齢者の場合、肋骨とか簡単に折れてしまいます。助けないでと言われても、搬送されてきたからには、まずは全力を尽くすしかないのですが、ご家族のもとに、胸がへこんでしまった状態で患者さんをお返しすることになるので、心苦しいです」

 一方で、「やれる治療はすべてやってください」と頼まれることも多いが、それもまたつらい。

「仮にやれることを全部やるとなると、たぶん1~2時間もしないうちに、人工呼吸器や人工栄養などの延命装置につながれて、全身管だらけになります。全部やってくださいと言われたら、全部やるしかないのですが、これが本当に患者さんの望むことなのかと思うことは多いです」

 患者が亡くなった後も、救急医の悩みは続く。

「搬送されてくる患者さんはほとんどが初見で、われわれ救急医は、患者さんにもご家族にも面識がありません。それまでの経過を知らないので、死亡原因が分からない。異状死として、警察に届け出なければなりません。

 すると警察も、事件性の有無などを調べなくてはならなくなり、パトカーが自宅に行って現場検証をする、ということにもなります。

 119番⇒救急隊⇒病院⇒警察、というのが一連の流れで、当センターに搬送された患者さんでも年間100とか200とかで警察の捜査が入る。