なぜ人材の長期育成の期待値は高くなるのか?

 ちなみに、なぜ人材の長期育成が、とくに「期待値が高すぎる」のかというと、理由は2つです。

 1つは、他の企業との比較が難しいからです。
 たとえば、満足度が低いという点で言うと、「待遇(給与)」も同じ傾向だが、それでも待遇は「他の企業と比較してあきらかに高いとき」は客観的にわかりやすいのです。年収◯◯万円という風に比較できるからだ。したがって、待遇面の満足度が3.5以上の企業も、たとえば高給取りで有名なキーエンスなど8.7%あります。一方で、人材の長期育成は仮に会社が一生懸命投資したとしても、他社と比べて比較することが難しく、それゆえに「満足する基準がない」のだと思われます。

 もう1つは、「育成とは、与えてもらうものだ」と思っている人が多いからでしょう。実際、私も若いころはそう思っていました。
 成長とは、「自分で手に入れるもの」であるにもかかわらず、多くの人々は、「上司や会社が与えてくれるもの」だと過度に期待しています。会社と学校はあきらかにルールが違います。学校はお金を払い、教えてもらう場所です。だが、会社はそうではない。お金をもらっている。会社は成長する機会は提供できても、社員を育てるための学校ではありません。
 これは重要な点なので、もう一度言います。

 会社は人の成長を“ある程度”は約束できるかもしれないが、そもそも本質的には長期的な成長は“自分で築くもの”なのです。

 世の中にはすでに、数多くの人事関連の書籍や研修があります。その中には、「給与体系」「人材育成」に関するものがたくさん含まれています。しかし、大事なのは別のことです。さらに詳しくは『OPENNESS  職場の「空気」が結果を決める』に譲りますが、これらの項目において多くの職場で足りていないのは、施策内容より前に、まず「期待値の調整である」という意外な真実なのです。