分類と系統の違い

 ところで、細菌とアーキアは、原核生物として一つにまとめられることもある。すべての生物は生体膜を持っている。その生体膜を、細胞の外側を包む細胞膜としてだけ使っているのが、原核生物だ。

 一方、生体膜を細胞膜だけでなく、細胞内部を仕切るのにも使っているのが真核生物だ。仕切りの中で一番重要なものは、DNAを包んでいる核膜である。この、核膜がDNAを包んでいる構造を核という。したがって、核がないのが原核生物で、核があるのが真核生物といってもよい。

 ここで、少しややこしいのが、分類と系統の関係だ。細菌とアーキアは、両方とも原核生物に分類されるので、系統的にもお互いに近縁かというと、そうではない。アーキアから見ると、細菌より真核生物の方が近縁なのである。

 身近な例で考えてみよう。サメとマグロとヒトは、大昔は同じ一つの種だった。そこから、最初にサメに至る系統が分かれ、そのあとでマグロに至る系統とヒトに至る系統が分かれた。だから、ヒトとサメより、ヒトとマグロの方が、系統的に近縁なのだ。

 マグロから見た場合は、サメよりもヒトの方が近縁ということになる。しかし、サメとマグロは魚類に分類され、ヒトは哺乳類に分類される。それは、ヒトよりも、サメとマグロがお互いに似ているからだ。サメとマグロには鰭(ひれ)や鰓(えら)があるが、ヒトにはない。ヒトには手足や耳があるが、サメとマグロにはない。

 ただし、ヒトとマグロが似ているところもある。たとえば、ヒトとマグロの骨格はおもに硬骨だが、サメは軟骨だ。しかし、全体的に見れば、サメとマグロが似ているところの方が多いだろう。おおざっぱにいうと、似ているものをまとめたものが分類で、それは必ずしも系統的な近さと一致しないのである。

(本原稿は『若い読者に贈る美しい生物学講義』からの抜粋です)