『告白』『悪人』『モテキ』『バケモノの子』『バクマン。』などを手がけた映画プロデューサーで、初めて書いた小説『世界から猫が消えたなら』が120万部を突破し映画化。2016年も映画『怒り』『何者』など、次々と繰り出される企画が話題を集める川村元気。その背景にあるのは「“苦手を学ぶ”ことで、人間はぎりぎり成長できる」という一貫した姿勢だという。
そんな川村元気が、話題の新刊『理系に学ぶ。』では、「文系はこれから何をしたらいいのか?」をテーマに最先端の理系人15人と、サイエンスとテクノロジーがもたらす世界の変化と未来を語っている。
本連載ではその中から5人との対談をピックアップするが、第10、11回では、「世界の栄養不足を救う!」ために研究を始めたミドリムシの多様な可能性を追求し続けるユーグレナ代表取締役社長の出雲 充さんにご登場いただく。

ミドリムシのすごさを教えてもらえますか?

川村 まず初めに、どうして「ミドリムシ」だったのか、教えてください。

出雲 「将来は国連に就職して飢えに苦しむ人を助けたい」と思っていた大学1年の夏休みに、世界最貧国といわれていたバングラデシュに行ったんです。途上国ではみんながお腹をすかせているイメージがあったんですけど、そんな人は誰一人いなくて、3食ちゃんとカレーライスが配られるんですよ。しかも倉庫から溢れるくらいストックもあって、カロリーメイトをスーツケースに入れて大量に持っていったんですけど、「要らない!」と言われて。

川村 食料は十分に足りているということですね。

出雲 でも、一緒にサッカーや運動をしたりすると、子どもたちはすぐにへたり込んじゃって、しゃがんで動かなくなってしまう。要するに米以外のものを食べていないから、筋力が作れないんです。

川村 ビタミンやタンパク質がほとんど取れていないということでしょうか。

出雲 そうなんです。そこで思い出したのが漫画の『ドラゴンボール』に出てくる架空の食べ物「仙豆」でした。1粒食べれば何日も空腹にならない仙豆のような食品を発明できたらと。その後、大学に戻って効率的に栄養素を摂取できる源を探していたとき、ミドリムシに出会ったんです。

川村 ミドリムシはどんなポテンシャルがあるんですか?

出雲 植物性と動物性の両方の栄養素を持った生物は、地球上でミドリムシだけなんですよ。体内にある葉緑素で光合成をしてビタミンなどの植物性の栄養素を作りながら、タンパク質などの動物性の栄養素を備えていて、自ら動くことができるんです。

川村 『ドラえもん』に出てくる木の生き物、キー坊みたいなことですね(笑)。

出雲 そうですね(笑)。しかも5億年も生きていて、なおかつ絶滅していないっていうのは奇跡的だと思います。普通、植物であれば光合成をやるぞと進化していくし、動物は高度に動けるようになるぞと進化していくわけで、いいとこどりはあり得ない。どっちかに特化して進化していかないと生き残るはずがないのに、ミドリムシのようなどっちつかずで死なずにいた種は他にいないですよ。

川村 恐竜は一瞬、地球の覇者になりましたけど、氷河期が来てすぐいなくなっちゃいましたし、人間にしてもたかだか数十万年なわけで、ミドリムシは想像を絶するほどタフなやつなんですね。