最近、企業などがネットで炎上した広告などを即座に撤回する、という動きが相次いでいる。これは一見、誠実な対応に見えるかもしれないが、場合によってはマイナスイメージに繋がったり、追及者に「勝利宣言」させるといった、「負け」につながる対応である。(ノンフィクションライター 窪田順生)

厚労省や資生堂も
即座の中止・撤回が増えている

桜を見る会「桜を見る会」を速攻で中止にしたことで、「やっぱり後ろめたいことがあったのか」という印象を与えてしまった Photo:EPA=JIJI

 マスコミと野党に攻撃された途端にサクっと来年の中止を決定した「桜を見る会」のように、最近、世間から少しでも叩かれると、クサいものにフタといわんばかりに即座に中止・撤回をして幕引きを図るパターンが増えてきている。

 記憶に新しいのが、厚生労働省の「人生会議」の啓発を目的としたPRポスターだ。心電図のような波形が徐々に小さくなっていくビジュアルに重なる形で、酸素チューブを鼻に入れてベッドに横たわる芸人・小籔千豊さんが苦悶の表情を浮かべて、家族ともっと話し合いをしておけばよかったと後悔する、というこのポスターは、がん患者の家族や遺族を傷つけているとして批判が殺到。これを受けて厚労省は、普段のお役所仕事では考えられないほどの早い対応を見せ、全国の自治体へ発送する前に中止を決定。すぐにこんなコメントを出したのだ。

「厚生労働省としましては、こうしたご意見を真摯に受け止め、掲載を停止させていただき、改めて、普及・啓発の進め方を検討させていただきます」(厚労省HPより)

 さすが責任回避のプロ集団だけあって謝罪まではしないが、ポスターに込められた真意を説明したり、反論したりという努力ゼロという点においては「全面降伏」といっても差し支えない。

 このように「とにかく1秒でも早くクサいものにフタ」というトレンドは、民間企業もまったく同じである。

 わかりやすいのが、今年5月、資生堂アネッサのウェブCMが配信した翌日に終了したケースだ。資生堂側は「プロモーション期間が終了した」と説明したが、ネット上では「抗議」によるものだとささやかれている。

 実はCM出演者の中の1人が、過去にツイッターで性暴力の無罪判決に異議を申し立てる女性たちを侮辱するような投稿(現在は削除)をしたとして炎上。CMに対しても、このような人物を起用するのかという抗議が寄せられていた。

 資生堂側は抗議とCM中止の関連性については「回答する立場にない」としているが、ハタから見れば、慌ててクサいものにフタをしたようにしか見えない。