海外で大量のプロジェクト
それでも日本ではおとなしい

 三菱商事は2015年からすでに欧州で4件の洋上風力発電プロジェクトに参加し、ノウハウを蓄積してきた。エネコとの協業経験もある。洋上風力発電プロジェクトで欠かせない、海底送電プロジェクトにも11件投資している。

 そして、今回のエネコの買収である。エネコは電力の小売り以外にも、発電量に変動性がある再エネを取り込んだ電力の需給調整を担うデジタル技術「バーチャル・パワー・プラント」(VPP)を保有し、電力トレーディング事業も手掛ける。

 三菱商事の洋上風力発電に関する投資戦略は、「発電」「送電」「小売り」を一気通貫で攻め込む狙いがあるようだ。しかし、今のところ、日本ではおとなしい。

 秋田県潟上市沖での洋上風力発電プロジェクトに共同参画しているが、地元の風力発電会社ウェンティ・ジャパンらに比べて、アピールは控えめである。

 それでも、日本でのより大規模なプロジェクトへの参画を視野に入れているのは間違いない。前のめりで資金を突っ込むプレーヤーが失敗した場合でも、それを自らの糧にして、おいしいところを持っていくのかもしれない。

 そうした動きを見せるであろうもう一つの国内プレーヤーは、東京電力ホールディングスと中部電力の火力発電・燃料調達部門を統合したジェラである。

 ジェラは台湾の洋上風力発電プロジェクト「フォルモサ1、2」に参画しており、これを“仮想日本”と位置付けている。

 さらに世界最大級となる200万kW規模で、プロジェクト総額が1兆円にも上るフォルモサ3にも参画を検討中。フォルモサ1は建設途中から、フォルモサ2は建設初期から、フォルモサ3はゼロからという、それぞれ開発段階の異なるプロジェクトに参画することで、ノウハウの獲得を急いでいる。

 同社の小野田聡社長は「ノウハウを日本に還元したい」と、日本でのプロジェクト参画をうかがっている。

シェル、マッコーリーら
“黒船”の不気味

「結局、外資系に全て持っていかれるのでは、というのが一番の不安」と、日本の洋上風力発電プロジェクトに関わる大手電力会社幹部はこぼす。

 日本勢が不気味に、そして脅威に感じているのは、洋上風力発電の経験が豊富な外資系発電事業者だ。

 シェルはもちろんのこと、豪マッコーリー、仏エンジー、ノルウェーのエクイノールなどは日本国内にオフィスを構え、情報収集を続けている。

 ある大手ゼネコンの幹部は「うちと一緒にやりませんかと誘われた」と外資系発電事業者からオファーがあったことを明かす。外資系発電事業者にすれば、海域の先行利用者である漁業者との利害調整や実際の建設工事は、地元である日本企業に頼りたいところ。単独での参入が難しいのは承知の上で、“泥仕事”を担う電力会社やゼネコンなど日本企業のパートナーを探しているのだ。

 当然ながら、外資系発電事業者はグローバルでサプライチェーンを持つので、ブレードやタワーといった部品や工事を行う作業船などの調達力は圧倒的。プロジェクトマネジメント能力にも長けていて、コスト競争力も高いといえる。

 となると、洋上風力発電のノウハウに乏しい日本企業は、外資系発電事業者と組むのが理想的かもしれない。

 ただし、それなりに高い“授業料”を払わされそうだ。「契約条件を詰めて、こちらがどれだけリスクを背負わない形に持ち込めるかが鍵」とエンジニアリング会社幹部は、外資系発電事業者と組んだ場合の注意点を明かす。

 洋上風力発電はバブルを経て再エネ“最後の楽園”になるのか。そこに住まうのは日本企業か、“黒船”か、はたまた連合軍か、波乱を巻き起こすのはこれからである。

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