15兆円の洋上風力バブル_01Photo by Ryo Horiuchi

全国の中でも人口減少が著しい秋田県が洋上風力発電の“銀座”と化している。電力、ゼネコン、商社などさまざまな業界がこの地に“金脈”を見いだし、プロジェクトを始めているのだ。特集「15兆円の洋上風力バブル」(全5回)の#01では、今後の洋上風力発電ビジネスの密集地帯、秋田県を追う。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

「あなたの海を売ってください」
漁師を怒らせたスーツ男の正体

 海は己の人生を懸けてきた場所であり、己を育ててくれた場所。漁師の宝である海をこの若造はよこせというのか。

「二度と来るな! とっとと帰れ!」

 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故から4年が過ぎた2015年のある日、秋田県漁業協同組合の南部地区(由利本荘市、にかほ市)代表を務める佐藤正博副組合長の元をスーツ姿の青年が訪ねてきた。

 そして言い放った。「あなたの海を売ってください」と。

 青年は東京の会社に勤めていた。再生可能エネルギーを手掛けており、秋田の海に風力発電所を造りたいという話だった。

 数カ月後、今度はレノバという別の社名を名乗るスーツ姿の男性がやって来た。

「共存共栄の輪をつくりましょう」

 第二の男は地球に優しい再生可能エネルギーの利点を強調しつつ、県魚であるハタハタの漁も守ることを穏やかな口調で丁寧に語った。

 佐藤氏の怒りは解け、共感を覚えるようになった。

「よし、分かった。あんたを信じよう」

 漁師を心変わりさせた第二の男は、レノバの木南陽介社長だった。洋上風力発電によって漁獲量が減らないよう環境に配慮すること、禁漁期には洋上風力発電関連の仕事に従事してもらうことなどを約束した。