「市場主義2.0」とは、戦後の北欧諸国が採用した国家モデルを原型として、EU統合後の欧州諸国が目指してきた経済社会システムのことを指す。このようにいうと、怪訝な顔をされる読者も多いであろう。米英と欧州はしばしば考え方の違いが強調されるし、北欧諸国は、米英の「新自由主義国家」と対比される、「社会民主主義国家」であるとの見方が一般的であるからだ。

確かに米英と欧州は対極に位置する。しかしそれは社会保障制度を中心とした社会政策面での話である。実は経済政策面では、北欧諸国は思いのほか市場競争を重視してきたし、EU統合以降、欧州諸国が目指すべき国家モデルにおいても、競争政策を重視するスタンスが強まっている。

北欧モデルの
市場主義的性格

 まず、北欧モデルについてみていこう。一般にスウェーデンに代表される北欧の国々は、「大きな政府」の代表格であり、「福祉大国」として認知されている。実際、社会関連支出のGDP比をみると、主要先進国のなかでも北欧諸国は最もその比率が高い国々である。

 しかし、社会関連支出の内訳をみると、意外なことに気づかされる。年金・医療・介護といった、通常イメージされる主に引退世代のための支出割合が少ないのである。むしろそうした支出の割合は、ドイツやフランスなどの大陸欧州諸国の方が多い(図表1参照)。

 では、どういった支出が多いかというと、保育などの家族政策に関わる支出である。北欧は女性の社会進出が盛んであるが、それを支えているのが政府の積極的な育児支援策である。さらに、雇用政策(労働市場政策)への支出が多いのも特徴である。これは積極的労働市場政策と呼ばれるもので、単に失業者の生活を支援するものではなく、職業訓練や職業紹介により積極的に労働移動を促進しようというものである。