つまり、北欧の社会保障の中味には、弱者を救済するという性格のもののみならず、「環境変化に適応しようとする人を支援する」という性格のものが多く含まれているのである。重要なのは、この背景に競争促進的な北欧の経済システムがあることだ

 意外かも知れないが、実は一般にイメージされている以上に北欧の経済・産業の状況は競争的で厳しい。通信分野、電力分野をはじめ、規制緩和が早くから実施されてきた。現在わが国で課題として浮上している電力市場の規制緩和では、すでに90年代はじめに発送電分離が行われ、90年代後半にノードプールと呼ばれる北欧共同の広域電力網が構築されている。

 さらに、不況時に経営危機に陥った企業を、政府は原則救済することもしない。例えばスウェーデンの自動車メーカーであるボルボは、リーマンショック後、経営危機に陥ったが、政府からの支援はなく、中国企業に買収される形となった。

 このように、競争促進的な経済システムを採用すれば、既存産業から余剰人員が吐き出されてくることになる。そうした人々を新たな職にシフトさせることを強力に支援するのが積極的労働市場政策にほかならない。保育政策の充実も、男女共働きをしやすくして所得源の複数化を促し、家庭単位で失業へのリスクに備えることを可能にしているという点で、競争的な経済システムに人々が適応することを支援するという側面がある。

 北欧における、こうした競争促進的な経済システムと適応支援型の社会システムの組み合わせは、実は戦後早くから追求されてきた。

 スウェーデンのケースでみてみよう。同国では戦後、社会民主党が政権を掌握するが、その有力な支持母体である労働組合が、同国の戦後の経済社会モデルの基本を形成する。そのモデルは、理論的主柱になった労組所属の2人のエコノミストの名前を冠して「レーン・メイドナー・モデル」と呼ばれた。それは産業横断的な平等賃金のもとでの完全雇用実現に向けて、低生産性部門で生まれる余剰人員を超過利潤が発生する高生産性部門にシフトさせるために、職業訓練を積極的に行うというモデルである。