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データサイエンティストの冒険

【新連載】アナリティクスとの出会い――知る力、予見の力がもたらす新たな世界

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第1回】 2012年8月6日
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予測モデルとIT基盤によって、
これまで分からなかったことが瞬時に判明

 「ITが世界を変えることは無くても、強い意思を持つものが、それを武器として使うことで、真剣にアメリカを、そして世界を変えられると思っている。

 爆発的な伸びを見せるCPU性能やストレージ容量の増加がもたらす恩恵は、皆が想像しているより強い。アナリティクス。つまり予測モデルとIT基盤は、これまでできなかった予測を瞬時に可能にする時代が来る。医療診断データ解析はその一つの鍵だ。公共医療政策の分野では、EHRが今後爆発的に拡大する。そのデータは有意性ある統計情報として、3大疾病を劇的に予防するための医療に役立てられる。

 想像してほしい。HbA1cを追跡するだけで、2型 糖尿病を劇的な確度で予防できる。この国が糖尿病の治療のために、どれだけ負の経済効果を負担しているか知っているかい? 1320億ドルだよ(2005年当時CDC発表統計情報による。1ドル80円換算で約10兆円)。この施策で、今ある政策原資を、世の中の別の政策により振り向けることができたなら、この国の医療政策と社会福祉領域は改善される。

 平等な公共医療や予防教育が国民に提供できれば、ますます豊かな国になると思っている。私と共に働かないか?」

 と言われ、必死にメモを取った。EHR(Electronic Health Recordの略)とは何だ?とか、HbA1cって何かの薬か何かなのか? 経営戦略やミクロ経済政策については詳しいつもりだったが、医療政策の専門用語には当時無知に近かった。その場では全然消化しきれなかったが、メモを元に、自宅に戻って必死に調べ物をした記憶が残っている。調査するにつれ、間違いなく今までとは違う何かを感じ、翌日にはオファーを受ける返事をし、電話口で即採用された。結構ドラマティックである。

 日本では考えられない。20分程度の面談で、しかもトップダウン採用で。面白い国に面白い政府の役人がいると思った。こんなスピード感の速い国に日本が勝てるはずもないとも思った。

 ただし、その後FBI(米連邦捜査局)から電話がかかってきて、経歴をこと細かく調査されたり、医療情報を扱う部局なだけに、犯罪歴や学歴についてのチェックが大学院証明書オフィスに入るあたりは、日本と違って人事手続きが非常に厳格であるが、これも言ってみればアナリティクスである。

 つまり、将来問題を起こしそうな職員を、事前にはじく仕組みとして、犯罪履歴や、経歴の参考人チェックは、非常に高い確度で、候補者の質や将来の問題を当てることが可能である(海外の映画などで誰もが一度は耳にしたことがあると思うFBIの犯罪プロファイリングなどは、いわゆる線形分類と言われるロジスティック回帰分析やサポートベクタマシンによる判定、一般線形モデル(GLM)における多元配置の分散分析による判定で行われている)。

 これがアナリティクスという言葉を聞いた最初の出会いである。筆者は、渡米前まで経営コンサルタントとして、最近傍法や相関分析、分散分析、重回帰分析などの多変量解析を用いた顧客スコアモデルなどを構築しながらプロジェクトを提案、運営していたが、当時のコンピューティング能力とソフトウェアではやれることが不足していて、正直なところ限定的なアナリティクスしかできていなかった。

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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近年テクノロジーと数理モデルによってもたらされるアナリティクスが、ビジネスを大きく変えようとしている。データの高度な活用から次の打ち手を見出す力、アナリティクスの決定的な優位性を最前線から解説する。

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