日本の組織には本当の意味の「優しさ」が欠如している
日本の職場がそうなってしまったのは、「優しさ」が原因です。現代における、優しさの考え方には2つあります。
ひとつは、本音を言わずに嘘をつくことや忖度することが優しさだという考え方。これが日本人には圧倒的に多い。
もうひとつは、必要であれば厳しいことも言うけれど、その根底には「リスペクト」やある種の「愛」がある優しさです。経営者でもある僕自身が痛感しているのは、本当の優しさは本人のために言うべきことを言う後者の優しさで、組織にこそ必要だということです。
後者の優しさが成り立つ環境を作り出すためには、開放的で透明性のある職場、すなわち「オープネス」を高める必要性があります。
なぜなら「相手を思って、言う」というのはハラスメントと紙一重だから。しかし、人間の心、特に周りを気にする日本人の心は弱いから、そう簡単には変われないと思うのも事実です。では、何をどうすればいいのか?ということを、他人事ではなく自分事として考えてもらうために、客観の世界の「データ」で示した本を出さなければならないと思いました。
――アリババ創業者のジャック・マー氏も、経営には「愛」が必要だと言っています。「これからの経営者には、IQ(頭の知能指数)よりもLQ(愛される指数)が大事だ」と。これは北野さんのいう「優しさ」に近い概念でしょうか。
経営というのは、人と人のつながりの中で成り立っていますよね。人間の感情を排除して理詰めで仕事をしてもらう事業は、経済発展のためにロボットのように働いていた時代には通用したかもしれません。しかし、これだけ世の中が便利で豊かになってくると、会社のために我慢して働く意味がなくなってくる。
より高い効率や生産性を目指して、たとえば「東京と大阪を30分で移動できたほうがいいか?」と聞かれたら、別に30分で移動できなくても生きていけると思いますよね。では、今の世の中で人の心を動かして、人の役に立つものは何なのか考えたとき、ある種の愛情や愛着を持って仕事に取り組めなければ、いいサービスや商品は生まれないと思うのです。