「遺伝子」の定義とは?

 DNAの塩基配列が情報として使われるときは、RNAというDNAに似た分子に塩基配列が転写される。そしてRNAの塩基配列をもとにアミノ酸を並べて、タンパク質を合成する。具体的にはDNAやRNAの3つの塩基が、タンパク質の1つのアミノ酸に対応している。

 たとえばAGCという3つの塩基は、セリンという1つのアミノ酸に対応している。このような3つの塩基(コドンと呼ぶ)と1つのアミノ酸の対応の仕方を遺伝暗号という。

 コドンの中には、アミノ酸に対応しているものだけでなく、RNAからタンパク質への翻訳を開始させる合図となるもの(開始コドン)や、翻訳を終了させる合図となるもの(終止コドン)もある。ただし、開始コドンはメチオニンというアミノ酸に対応したコドンと兼用になっている。

 タンパク質を作っているアミノ酸にはたくさんの種類がある。しかし、作られたばかりの出来たてのタンパク質では、たいていアミノ酸は20種類(まれに21種類。ヒトでも21番目のアミノ酸といわれるセレノシステインを使うことがある)である。

 その後、化学反応によってアミノ酸を変化させることがあるので、たいてい1つのタンパク質を作っているアミノ酸は20種類より多くなるわけだ。

 一方、RNAの塩基は4種類しかない。RNAでは、DNAのTの代わりにウラシル(U)が使われているが、その他の3つの塩基はDNAと同じなので、RNAの塩基も合計四種類になる。塩基を3つ並べたコドンは、4×4×4=64種類あるので、20種類のアミノ酸を指定することができる(というか、コドンの種類の方が多いので、異なるコドンが同じアミノ酸を指定することもある)。

 タンパク質は化学反応などの生命現象を実際に行う分子である。生物にとって一番重要な分子といっても過言ではない。その分子の作り方(アミノ酸配列)が、DNAの中に塩基配列として書かれている。

 ではなぜ、DNAからタンパク質を作るときに、途中にRNAが入るのだろうか。

 私たちのDNAの大部分は、細胞の核の中にある(一部のDNAはミトコンドリアにあるが、その長さは核の中のDNAの約20万分の1である)。一方、タンパク質を作るリボソームという構造は、核の外にある。そのためRNAが情報の運び屋をしているのだ。

 核の中でDNAの塩基配列を転写したRNAは、核の外に出てきて、リボソームでタンパク質を合成するのである。リボソームはおもにタンパク質とRNAから成り、RNAの遺伝情報にしたがってアミノ酸をつなげて、タンパク質をつくる働きをしている。

 ちなみに遺伝子という言葉をよく聞く。私も本書の中で何回も使っている。ところが、遺伝子という言葉には明確な定義がない(逆にそこが便利なので、よく使われるのだろう)。

 一応DNAの中で、1つのタンパク質を作るためにアミノ酸を指定している部分を、1つの遺伝子とすることが多いようだが、DNAのそれ以外の部分を含めることもあるし、そもそもDNAを使わない定義もある。

 たとえば「子葉を黄色にする遺伝子」のように目に見える特徴の原因となるものを遺伝子と呼んだ場合は、DNAの中のいくつもの部分が関係していることもある。