生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が11月28日に発刊されて、発売4日で1万部の大増刷となっている。

養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏から絶賛されたその内容の一部を紹介します。

生物学者が語る「遺伝」のしくみ。親が獲得した「形質」は子どもに伝わるのか?Photo: Adobe Stock

生物と雲の違い

 現在の地球上で多様性を持つものは、生物だけではない。鉱物にも、ルビーや水晶など多くの種類があるし、空に浮かんでいる雲にも、入道雲やうろこ雲などさまざまな種類がある。しかし、地球上でもっとも多様性が高いものは、やはり生物だ。

 いま、生物多様性は減少しつつあるが、それでも他のものに比べれば、圧倒的に高い多様性を持っている。どうして生物は、こんなに多様なのだろうか。

 最近は昔ほど流行っていないようだが、子どものおもちゃにブロックというものがある。

 何種類か大きさの違うブロックがあり、それらをお互いにはめれば、いろいろな形を作ることができる。

 ある日、子どもがブロックで家を作ったとしよう。そして、遊び終わると家は分解されて、バラバラのブロックに戻して箱にしまわれる。ふつうは、こういうことが繰り返される。遊び終わるたびにリセットされて、毎日、一から作り始めなければならないので、それほど複雑なものは作れない。

 しかし、遊び終わっても片付けなかったら、どうなるだろう。たとえば、ブロックで家を作ったら、遊び終わってもそのまま置いておくのだ。そして次の日には、前の日に作ったブロックの家からスタートする。その家に新たに二階をつけてもいいし、周りに庭を作ることもできる。半分壊してリニューアルしたっていい。そして遊び終わると、またそのままにしておく。こういうことを繰り返せば(そしてブロックがたくさんあれば)、どんどん複雑なものを作ることができる。

 そして、「複雑なものを作れる」ということは「さまざまなものを作れる」ということを意味する。ブロックが少ししかなければ、簡単なものしか作れないので、多様性は低くなる。複雑さは多様性を生み出すのだ。そのためには、遊び終わっても片付けないで、積み重ねていくことが大切だ。

 生物と雲の違いは、積み重ねがあるかないかだ。雲の場合は、親雲から子雲ができるわけではない。雲ができるときは、一々リセットされて最初から作られる。だから、多様性はそれほど高くならない。しかし生物の場合は、親から子が産まれる。そうして特徴が積み重なっていくので、多様性は高くなっていくのである。

 遊び終わってもブロックを片付けないことは、生物では遺伝に相当する。子が親の特徴を引き継ぐからこそ、積み重ねることができ、そして多様な生物が生まれたのだ。

 ちなみに、生物は単純になることもできる。複雑になるばかりではなく単純になることもあるので、さらに生物多様性は高まったことだろう。このような生物多様性を作り出す基礎となった遺伝とは、どのようなものだろうか。