米金融大手のシティグループが、日本で展開する日興コーディアル証券などを売却する方向で検討に入ったことで、証券業界の再編機運がにわかに高まってきた。

 買い手として名前が浮上するのがメガバンク。このうち、三菱UFJフィナンシャル・グループは、証券業務の強化が積年の課題。2008年9月末時点で傘下の三菱UFJ証券は、リテール業務の預かり資産が13兆円と、大手3社に大きく水をあけられている。

 日興コーディアルを手中に収めれば、預かり資産は一気に40兆円を超え、68兆円の野村證券を追随する態勢が整うというわけだ。

 みずほフィナンシャルグループも同様。特にみずほは、2年前に旧日興コーディアルグループ争奪をめぐり、シティと競った過去があるだけに関心は高い。

 ただ、両グループ共に「待ちの姿勢で積極的ではない」(関係者)という。というのも、それぞれ懐事情が心許ないからだ。

 大手証券幹部によれば、PBRなどから算出した日興コーディアルの現在の価格は3000億円程度。プレミアムを上乗せしたとして4000億円くらいだという。シティが1兆円近く投じて買収したことを考えればかなりの安値だ。

 しかしメガバンクは、世界的な金融危機に端を発した株安の影響で苦境に陥っている。最も投資余力がある三菱UFJでも、08年10~12月期の決算で2880億円の減損処理を迫られ、09年3月期決算も最終赤字に転落する可能性が高まっている。

 その影響で自己資本は毀損、「資金調達せずに買収することは、とうてい無理な話」(メガバンク幹部)。ただ、「ライバルには取られたくなく、相手の出方を見守っている」(同)状態だという。

 わずか2年で、再び漂流する憂き目に遭った日興コーディアル。シティも「売り急げばかなりの損失になるため、価格が上がるよう時間をかける」(証券会社幹部)と見られており、しばらく神経戦が続きそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部  田島靖久)