英国では2002年から50歳以上の男女を対象に社会生活と健康の関係を調査する「ELSA(平均年齢65.9歳、女性53.6%)」を行っている。
昨年末の報告では、美術館やコンサートに行くといった「芸術的な活動」に接する機会が多いほど、死亡リスクを減らす可能性が指摘された。
研究者らはELSA参加者のうち04~05年の質問表に答えた回答者の一部について、およそ14年間追跡。参加者が美術館やギャラリー巡り、演劇鑑賞やコンサートなど、いわゆる「受け身」の芸術的な活動に参加する頻度と死亡率との関係を調査した。
追跡期間中に2001人が死亡。
女性より男性の死亡率が高いほか、うつ症状や視聴覚障害、慢性疾患および身体活動量が少ないなどが死亡リスク因子だった。
また、学歴がなく、経済的に恵まれていない、調査時に無職、未婚(あるいは独居)、無趣味、親しい友人が少ない、地域のコミュニティー活動に参加したことがないなど、孤立につながりやすい要因も死亡リスクを高めることが示されている。
追跡期間中に、前述した芸術的な活動を「全く行わない」群の死亡数は、1762人中の837人(47.5%)だったが、「年に1、2回は参加する(3042人)」群の死亡数は809人で26.6%だった。つまり、「全く行わない」群に比べ、およそ14%死亡リスクが低いことになる。
また「2、3カ月に1回(1906人)」群での死亡数は355人、18.6%だった。こちらの死亡リスクは「全く行わない」群より、およそ31%低い計算だ。
「そもそも、文化・芸術的な活動をする財力があるからだ」という声も聞こえてきそうだが、経済的な因子の影響を補正しても、「芸術的な活動」の死亡リスク低減効果は維持されることが示された。
今回の調査では「なぜ」まで踏み込めなかったものの、研究者は「ストレス解消や創造性を育むことで、さまざまな不都合にも柔軟に適応できるのでは」と考えている。インドア派にとっては、ちょっとした朗報である。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)