事業別の売上高の構成比から、その実態が伝わってくる。

 19年12月期の中国事業の売上高は2162億円で、前年同期から13%増加した。ここ2年で見れば売上高は720億円も増えており、資生堂の成長の原動力となっている。

 加えて、同社が力を入れるトラベルリテール事業の売上高も1000億円に達し、この1年で17%増加した。トラベルリテールの収益の柱は、免税店での自社商品の販売。そして主な買い手は、代購(ソーシャルバイヤー)と呼ばれる中国人の代理購買者だ。つまり、これも中国市場の一つと捉えることができる。

 資生堂の“中国依存度”は右肩上がりになっており、中国とトラベルリテールの両事業を合計した売上高の構成比は、19年12月期は約30%にまで達している。

 さらに、日本市場での売上高の約2割に当たる965億円がインバウンド客によるもので、この多くが中国人の旅行客だ。

 日本の化粧品大手の中で、これまで最も順調に中国市場を開拓してきた資生堂。ところが新型肺炎という“ブラックスワン”の登場で、一転窮地に立たされている。

 中国では、春節が明ける2月10日以降、店舗の8割が営業を再開する予定だ。ただ、今後どのように渡航制限や移動制限が拡大するのかも予想できないため、状況は流動的だ。

 また、新型肺炎によるインバウンド客の減少について魚谷社長は、「団体旅行が減って(旅行者が)半分になっていると聞いている。それがデパートやドラッグストアに影響を与えているのは事実」と述べ、売上高減少という影響が既に出ていることを認めた。

 新型肺炎は資生堂の業績をどこまで左右するのか。新型肺炎の影響を加味した業績の見通しについて、魚谷社長は「(20年12月期)第2四半期の決算後に発表する」と述べるにとどめた。魚谷社長は20年12月期の上期は広告宣伝を抑えることにも言及しており、6日に発表された今期の見通しが大幅に下方修正される可能性は極めて高い。

 資生堂の今期の行く末は、中国次第なのである。

19年10~12月は10%減
最大の課題は「日本ローカル」

SHISEIDO THE STORE
東京・銀座にあるフラッグシップストア「SHISEIDO THE STORE」 Photo by R.S.

 ただ、資生堂の課題は新型肺炎だけではない。確かに新型肺炎のインパクトは大きいが、短期的なリスクと考える向きが多い。

 書き入れ時だった春シーズンのインバウンド客を逃し、次のチャンスとなる東京オリンピック・パラリンピックで、想定通りの売り上げが期待できるかは不明瞭だ。それでも新型肺炎が終息に向かえば、一気に攻勢をかけられる。

 資生堂の本当の課題は、降って湧いたトラブルをカバーできるほどの勢いが、最大の売り上げを占める国内事業にない点にある。

 日本の19年第4四半期(10~12月)の店頭売上高は、前年同期比でマイナス10%と大きく減少した。これについて、消費増税に加え、自然災害などが消費者心理に影響していると魚谷社長は釈明した。

「中国の団体のお客さまが減って、けっこう空いているんです」

 東京・銀座の一等地に立つ、資生堂のフラッグシップストア「SHISEIDO THE STORE」に足を運ぶと、美容部員はそう話した。

 新型肺炎が報道される以前は、平日でも店内は中国人団体客で溢れ返っていた。ところが、記者が訪れた日に店内にいたのは、数十人の美容部員と、2人の客だけだった。

 手持ち無沙汰な様子の美容部員たち。とはいえ、新型肺炎の対策として、店頭では客へのタッチアップ(直接メークやスキンケアを施すこと)すらできない。客は少し試しては帰っていき、店内は常にガラガラの状態だ。

「インバウンド客がいなくなり、資生堂のリアルな内需が丸裸になる」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の佐藤和佳子アナリストは指摘する。

 国内の旗艦店なのに、中国人観光客が来ないだけで開店休業状態になる。これが、資生堂の現状をそのまま表しているのだ。

 欧米は伸び悩み、アジアパシフィックはまだまだこれからという中、中国とトラベルリテールに急ブレーキがかかってしまった。そして、柱である国内事業も不調で、その実態は中国人客頼みだった。

 増産に伴う工場の新設や、米スキンケアブランド「Drunk Elephant」のM&A(企業の合併・買収)なども重なり、有利子負債が増加。在庫がかさみ、フリーキャッシュフローも大幅に減少している。状況としては、余裕があるとは言いにくい。

 インバウンド客はともかく、国内市場向けで目立ったヒット商品がないだけに、新型肺炎の傷は深まりかねない。国内市場へのてこ入れが、資生堂の今期の命運を握るだろう。

Key Visual designed by Kanako Onda