村上世彰氏むらかみ・よしあき/1959年、大阪府生まれ。83年、東京大学法学部卒業後に通商産業省(現経済産業省)入省。99年に退官し、投資ファンドを設立。06年にニッポン放送株を巡る証券取引法(現金融商品取引法)違反容疑で逮捕され、ファンド運営から退いた。現在はシンガポールに拠点を移し、投資活動を続ける 写真:村上財団

東芝機械にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けている村上世彰氏が、東芝機械会長兼CEO(最高経営責任者)の飯村幸生氏に対する反論をダイヤモンド編集部に寄せた。飯村氏は1月31日公開のDOLインタビューで村上氏の投資手法を批判したが、村上氏は「事実に基づかない悪質な印象操作」と一蹴。東芝機械が取締役会決議で買収防衛策を導入したことを「暴挙」とし、阻止する考えを示した。一方、東芝機械の取締役会は週内にもTOBに対する反対意見を表明する。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

東芝機械vs村上世彰氏
これまでの経緯は

 東芝機械は2月4日に中期経営計画を公表している。

 その計画によれば、23年度の売上高は1350億円、営業利益率8.0%、自己資本利益率(ROE)8.5%を目指す。

 成長戦略としてカンパニー制を導入し、構造改革や設備などに300億円を投資。村上氏側が求めている株主還元については、23年度までのキャッシュフロー原資から約150億円を配当に振り向け、期間中の配当性向を40%にするとしている。

 この計画について村上氏は「コーポレート・ガバナンス改善への大きな一歩」と一定の評価を示しつつ、「最も重要なのは、自らが掲げた目標を達成できるかどうかだ」と述べる。

 というのも東芝機械は、過去10年間にわたって計画未達を繰り返してきた経緯があるからだ。

 飯村氏は2009年に社長に就任し、17年4月から現職を務めるが、11年以降に策定した中期経営計画は毎年のように変更され、目標数値を達成できていない。19年5月にも売上高1350億円、営業利益率7.0%の中計を公表したばかりだったが、わずか1年足らずで今回の刷新に至った。

 今回の中計は、東芝機械からすれば、「会社の考える方向性を株主に見極めて判断してもらう」(飯村氏)ためのいわばマニフェストだが、村上氏はそもそも公約自体の実現可能性を過去の実績からして疑問視しているわけだ。

 また、東芝機械は20年中に希望退職を実施し1割弱の200~300人の社員を削減するリストラを断行する計画だが、これについても村上氏は「なぜ、経営陣がこれまで過大な内部留保の上にあぐらをかき、重要なステークホルダーである従業員を、そのような状況に追い詰めてしまったのか」と問題提起し、経営責任を問う考えを明らかにした。

 一方、飯村氏がインタビューで問題視したのは、村上氏のこれまでの投資手法についてだ。その一例が、4月1日付で加賀電子と経営統合することになる半導体商社のエクセルだ。

 エクセルは村上氏系の投資ファンド、シティインデックスイレブンスによりいったん100%子会社化され、土地や建物といった非事業用資産をファンド側へ現物配当する。その上で残るエクセルの事業用資産を加賀電子が完全子会社化するスキームが用いられる。

 これについて飯村氏は「『会社を解体する』としか思えない」と述べ、「村上氏のグループにマジョリティーを握られることは、従業員やご家族、取引先など当社のすべてのステークホルダーの共同利益を損ないかねない可能性がある」との懸念を示す。

 しかし村上氏はこれを「事実に基づかない悪質な印象操作」と一蹴し、エクセル側からの依頼を受けて加賀電子を紹介したにすぎないとした。

 今後の焦点は3月下旬から4月上旬にかけて開催される見通しの臨時株主総会に移る。東芝機械はこの総会で、取締役会決議で導入した買収防衛策の是非と、これを村上氏側に発動することの是非を株主に問う考えだ。

 昨年6月の株主総会で廃止したはずの買収防衛策を取締役会決議のみで復活させたことについて飯村氏は、村上氏側のTOBが企業価値を高める買収か否かを株主に必要な情報提供するための「株主判断スキーム」だと主張する。

 これに対し村上氏は「取締役の気に入らない株主による買収の意向が判明した時点で、株主総会で株主の意思を確認することがないまま、買収防衛策を導入して発動できるということになる」とし、飯村氏の主張は「言行不一致」だと批判した。

 東芝機械側は、出席株主の過半数の賛成(普通決議)で買収防衛策の発動が認められるとの立場だが、村上氏は過去の判例などから3分の2以上の賛成が必要と主張。仮に東芝機械が普通決議を強行した場合、東芝機械をめぐる攻防は法廷闘争に発展しそうだ。

 村上氏の一問一答は以下の通り。

――東芝機械が2月4日に公表した中期経営計画の評価は。

村上氏(以下略) 東芝機械の経営陣が、企業価値向上及び全ての株主の株主価値向上を意識したという点で、コーポレート・ガバナンス改善への大きな一歩と考えている。