決して命にかかわる病気でもないが、本人とってはつらい悩みを解消し、生活の質(QOL)を向上させる薬がある。生活改善薬あるいは、ライフスタイルドラッグと呼ばれている医薬品がそれだ。
その代表例がなんといっても勃起不全治療薬「バイアグラ」だろう。“たたない”という他人には言えなかった悩み、諦めていた症状が、薬によって治ることが知れ渡り、バイアグラはいまや全世界で約2000億円の売り上げを誇る。偽薬まで登場するほどの大型医薬品である。同様の機能を有する薬も2種類が開発されている。
爪の水虫は、皮フ科専門医へ。こんなテレビCMが何度もお茶の間に流れ、記憶にある方も多いだろう。これまで製薬各社は「インポ」と呼ばれた勃起不全を「ED」、「ハゲ」という薄毛を「AGA」、頻尿・尿失禁を「過活動膀胱(OAB)」と病名に言い換え、宣伝し、生活者の抵抗感を払拭してきた。
こうした生活改善薬に多く見られる特徴は、販売する製薬会社が疾患啓発、つまり病気の啓蒙活動に注力していることだ。
これは医療用医薬品自体を宣伝することが法律で禁じられていることもあるが、まず“病気”そのものを広く認識してもらい、病院で自社製品を処方してもらうことを狙いとしている。生活改善薬の多くは、当初、ほかに競合品がないか、あっても非常に少ないため、“病気の宣伝”が結果的に“製品の宣伝”につながるからである。
ある意味、「病気はつくられる」のだ。市場開拓に成功すれば、競合品が増えるまでの一定期間は市場の独占、寡占にもつながる。新薬不足に悩む製薬会社にとってうまみは大きい。
たとえば、小便の出が悪くなる排尿障害の場合、日本の潜在患者数は370万人(55歳以上の約2割)。これに対し、受診者は40万人にすぎない。製薬会社から見ればまだ300万人以上の潜在需要という“大市場”がある。