要するに、医療現場におけるICTの活用は、遅々として進んでいないのである。

旭川医科大学学長の吉田晃敏さん
旭川医科大学学長の吉田晃敏さん

 都市部の住人や在宅医療を必要としていない元気な読者は、「進展していないのは、(遠隔医療は)あまり必要とされていないから」と思うかもしれない。だがそれは間違いだ。予想以上のスピードで人口減が進んでいる日本において、遠隔医療は、将来の医療破綻を防ぎ、日本の医療が今後も世界のリーダー的立場を保っていくために、さらには日本経済にとっても、重要なテーマだ。

 こうした状況の中、興味深い事態が起きている。国全体として見ると、遠隔医療はなかなか広がらない日本だが、世界の遠隔医療をリードしているのも日本、しかも北海道の旭川医科大学(以下、旭川医大)であることをご存じだろうか。

 例えば2019年11月28日、ロシア・サハリン州保健省のユシュック・ウラジーミル大臣およびベデルニコワ・イリーナ副大臣が旭川医大を訪問し、医師・看護師等の研修内容や日ロ間でクラウド医療を活用する方法などについて、吉田晃敏学長と意見交換を行った。この訪問は、吉田学長が2017年に日ロ共同経済活動における官民調査団の一員(日本側の医療分野代表)としてサハリン州および北方4島を視察したことをきっかけに実現した。

 吉田学長は言う。

「サハリンで僕は、市長に提案しました。サハリンや北方4島の重症傷病者は、遠方のモスクワや韓国に航空機で搬送され、生命を危険にさらしています。それはやめたらどうですかと。サハリンから旭川空港まではジェット機で10分しかかかりません。ドクタージェットを飛ばしましょう。さらに、遠隔医療システムで両者をつなぎ、サハリン側の診断支援や退院後のフォローができるようにすれば、助かる患者さんが大勢います。現地の医療レベルを向上させるための研修も、うちの大学で引き受けますと」

 さらりと語るが、大変なことだ。北方4島の中でも一番近い歯舞群島までは根室半島の突端にある納沙布岬からわずか3.7キロメートルしかない。しかし、かつての島民すらビザなしには渡航できないし、4島返還の交渉は戦後全く進展してこなかった。

 いわば最も近くて遠い島といえる。それが仮に、サハリン経由であったとしても、医療連携が実現して、ドクタージェットによる超高速の患者搬送が可能になったら、すごい国際貢献になるのではないだろうか。

旭川と世界をつなぎ
超高速で進化を遂げてきた

 サハリン州が、数ある日本の大学の中から旭川医大を医療連携先に選んだのは、同大の長年にわたる遠隔医療への取り組みを評価したからだ。日本の最北に位置する国立大学だからでも、吉田学長が熱烈ラブコールを送ったからでもない。