種明かしをすると、じつは3人の男はすべてきっちり同じサイズで描かれています。しかし、私たちの目には、いちばん右の男がほんの少し大きく映りますよね。

「ああ、目の錯覚ね。知っているよ」という方はたくさんいるでしょうが、そもそも「右の男が大きく見える理由」まで説明できる人は、あまりいないと思います。

この絵を見るとき、「遠近法に慣れてしまった私たちの脳」は、瞬時に次のような判断を下しているそうです。

「3人の同じ大きさの男が描かれている。奥行きがある道路の上で同じ大きさに見えるということは、いちばん遠くにいる男はいちばん背が高いに違いない」

私たちの視覚には、こうした「歪み」が相当含まれているのです。

逆に、これまでまったく遠近法に触れたことがない人がこの図を見たら、「3人とも同じ大きさに決まっているじゃないか」と答えるはずです。遠近法的なものの見方は、人が生まれながらにして持っているものではないからです。

もう1つ、ルネサンス後期にオランダ人の画家によって描かれた上の絵を例に挙げましょう。海岸に打ち上げられたクジラを取材したもので、「実物から正確に描かれたもの」との説明書きもあるのですが……おかしな部分が一点あるのに気づきましたか?

優秀な「自称リアリスト」ほど、世界を歪めて見てしまうワケ《オランダの海岸にうちあげられた鯨》1598年、アムステルダム国立美術館、アムステルダム