「リアルな絵」というとき、多くの人は「遠近法」で描かれた絵を思い浮かべるはずです。遠近法とは、ものすごく簡単にいえば、「2次元平面であるキャンバスのうえに、3次元空間を描き出す技法」です。

たとえば、「いまいる場所から見える風景を描いてください」といわれた場合を想像してみましょう。おそらく、手前のものは大きく、奥のものは小さく描きますよね。平行な線が2本あったとしたら、遠ざかっていくにつれて幅が狭くなるように描き、奥行きを表現しようとするはずです。これを正確に理論立てたものが「遠近法」です。

優秀な「自称リアリスト」ほど、世界を歪めて見てしまうワケ

私たちの身近にある写真や映像にもまた、遠近法が反映されています。生まれたときから遠近法で表現されたものに囲まれて育っている現代人は、遠近法に従って描かれた絵を見たとき、当然のように「これはリアルだ」と感じるのです。

さて、ここで生徒のみなさんが描いたサイコロの絵を見てみましょう。みなさんには「できるだけリアルにサイコロを描いてみてください」と私はお伝えしておきました。

優秀な「自称リアリスト」ほど、世界を歪めて見てしまうワケ

「リアルなサイコロ」を描こうとするとき、あなたは無意識に遠近法を採用していませんか? 実際、このなかで「最もリアルなサイコロの絵」だとされがちな作品④は、「最も忠実に遠近法に沿って描かれた絵」だということが見て取れます。

つまり、私たちのほとんどが、「遠近法こそが、リアルな絵を描くための唯一無二の方法だ」と信じ切っているということなのです。

しかし、完全無欠に思える遠近法には、じつは「いくつものウソ」が隠されています。

たとえば、作品④に描かれたサイコロの「裏側」は、どうなっているのでしょう?