「表に1・3・5が見えている。じゃあ、裏は2・4・6に決まっているよ」

そうでしょうか? それは、あくまであなたがサイコロというものを知っているからいえることです。もしもサイコロをまったく知らない人がこの絵を見たとして、本当に「リアルなサイコロ」を思い浮かべることができるでしょうか?

作品④で描かれたサイコロの裏面には、じつは目が1つもないかもしれませんし、目が10個ある可能性だってゼロではありません。この絵からはそれがわからないのです。

遠近法の最大の特徴は、描く人の視点が1箇所に固定されていることです。

つまり、遠近法で描かれた絵は、つねに「半分のリアル」しか写し出せません。残り半分にどれだけ「大きなウソ」が隠れていても、そこをとらえることはできないのです。

遠近法は世界をリアルに描くための完璧な方法のようでいて、じつはかなり不確かな方法だとも言えます。

人間の視覚の頼りなさ

遠近法の話をもう少しだけ続けましょう。遠近法というのは、「ものをよく見て、それを正しく再現する方法」ですから、いうまでもなく「人間の視覚」に大きく依拠しています。

しかし、ここで考えてみてほしいのは、「人間の視覚は、そもそもどれくらい頼りになるのか?」ということです。

それを試すために、次のイラストを見てください。
ここで質問です。3人の男のうち、いちばん大きく見えるのはどれですか?

優秀な「自称リアリスト」ほど、世界を歪めて見てしまうワケ