黒岩知事に手渡した要望書には「裁判から見えた津久井やまゆり園の不適切な支援(虐待・部屋の悪臭・夜中の部屋の施錠など)の検証」、および、「知的障害のある人の入所型施設からの解放、および、地域での暮らしの実現」に関する次の4点が盛り込まれた。

「ピープルファースト」メンバーの知的障害者が神奈川県庁を埋め尽くした
「ピープルファースト」メンバー(知的障害のある人)が神奈川県庁を埋め尽くした 写真提供:創思苑

(1)裁判でやまゆり園における不適切な支援について明らかになりました。検証をお願いします。
(2)暮らす場所は家族が決めるのではなく、自分で決めたいです。私たちのことは、私たち抜きで決めないでほしいです。
(3)どんなに小さくても(入所型の)施設は一生暮らすところではありません。私たちにとって、施設の暮らしはとてもつらいことです。誰もがその人らしく安心して暮らすことができる地域社会を実現してください。
(4)私たちは障害者である前に人間です。自分の名前が言えない人でも心があります。幸せをつくることができることを、決して忘れないでください。

 この日、県庁を埋め尽くした組織「ピープルファースト」は、1970年代、アメリカやカナダで知的障害のある人たちが始めた活動で「自分たちの問題を自分たちのために、自分たち自身で発言していく」を理念としている。ピープルファーストとは「私たちは障害者である前に人間だ」という意味。特に「自分たちのことは、(親や職員でなく)自分たちで決める」を訴える。日本では2004年に組織が結成された。

 その背景には、これまでの障害者支援の現場では「この人にはわからないから」、何でも周囲が決めてきた歴史があった。前述の要望書の(2)に記載されている「私たちのことは、私たち抜きで決めないでほしい」は、国際連合が採択した障害者権利条約に書かれているフレーズ(Nothing About us without us)である。近年、このフレーズは認知症当事者も発信している。

津久井やまゆり園事件についての怒りを要望書に込めて、黒岩祐治知事に手渡した
ピープルファーストのメンバーは津久井やまゆり園事件についての怒りを要望書に込めて、黒岩祐治知事に手渡した 写真提供:創思苑

 要望書を受け取った黒岩知事は「皆さんの意見を受け止め、全力で利用者目線の福祉を進めていく」と答えた。

 さらに、ピープルファーストのメンバーは記者クラブで1時間にわたって記者会見をした。特に、裁判から見えてきた植松容疑者の勤務経験のエピソードはピープルファーストのメンバーが入所型施設で受けた悲しくて悔しい体験と重なるため、手記として公表した。

 中山さんは「障害があっても、適切な支援を受けられればやりたいことができる、重度の人でも入所型の施設でなく、地域のグループホームで生活できることを伝えたいです」と話す。

 重度障害者は、家族や職員から生活の支援を受けながら暮らしている。特に、大規模集団施設では生活や行動を規則として管理されることが多く、それが虐待や拘束につながりやすい。これまで、れいわ新選組 参議院議員の木村英子議員や舩後靖彦議員からも同様の体験談が紹介されている。