国が構築する特別支援教育は
個の障害を改善・克服する

 和希さんの就学相談で、川崎市教委は「特別支援学校」の就学を勧めた。一方、光菅さんは地域の小学校への就学を希望した。この違いは障害児の教育はどうあるべきか。国が構築した「特別支援教育」と、光菅さんの希望する「インクルーシブ教育」の考え方の違いにもとづく。この2つの考え方は似て非なるものだ。

 2007年、障害児に対する教育は学校教育法改正によって大きく変わった。それ以前の盲・聾・養護学校は障害の種類による特殊な教育だった。一方、新たな「特別支援教育」は個々の障害の状態に応じて、生活や学習上の困難を改善・克服するために指導や支援をする。つまり、通常の学校や学級に子どもを適応させるのではなく、人間の多様性に重きを置くため、障害児の学びの場を4種類に分けた。国はこの多様な学びの場等の仕組みのことを「インクルーシブ教育システム」としている。そして、この4種類の学びの場に「ともに学ぶ(交流)の時間」を設定する。

 特別支援学校では、特に障害者の精神的・身体的な機能等を最大限まで機能訓練等で発達させることに力を入れる。障害児は文字や数、言葉を覚えることが容易ではない。周囲から情報を取りにくい特性があるからだ。そこで、教科書を読む前に、いくつもの段階を経る必要がある。教科書の代わりに絵本を使ったり、飽きずに指導を受けられるよう遊びを取り入れたりするという。このため、特別支援学校では教員と生徒がほぼマンツーマンに近い形で、障害の状態に応じた専門的な指導をする。

 そして、たいてい特別支援学校は小学部・中学部・高等部が併設されているため、どのタイプの障害児にどのような指導をすれば、どんな卒業後の進路を歩んでいるか、事例が蓄積されている。このため、個別の教育支援計画を立てながら指導を進める。

インクルーシブ教育は
子どもが集団の力で成長する

地域の学校へ通学する人工呼吸器を装着する重度障害児が健常児と通学(広島県)地域の学校へ通学する人工呼吸器を装着する重度障害児が健常児と通学(広島県) 写真提供:人工呼吸器とともに生きる バクバクの会

 一方、光菅さんが希望したインクルーシブ教育は、障害者権利条約のもと「健常児と障害児が同じ場で、ともに学ぶこと」を基本とする。1979年、国は「障害児は養護学校で学ぶこと」を義務化した。これをきっかけに、健常児と障害児を分けて教育することを批判する運動が40年間続いてきた。「子どもは集団の中で成長する」「分けられた側の子どもが味わう疎外感は人生に大きな影響をもたらす」と訴える。さらに、「分離教育は障害者への差別、社会からの障害者排除につながる」と警鐘を鳴らす。最近では、知的障害者施設で起きた津久井やまゆり園事件に関して、参議院議員の木村英子さんが養護学校時代、分けられた側の悲しみやつらさをコメントした。

 障害児が地域の小学校への就学を希望する場合、前述の就学相談で光菅さんのように悩むケースが続発し、先に経験した障害児の親や支援団体が助言をしてきた。全国に関連組織があり、地域の学校の教員や元養護学級教員、元養護学校教員、弁護士、社会福祉士、障害児を持つ親らが支援する。

「障害児が地域の学校へ通学しても、座っているだけで学びにつながらない」とこの運動を批判する意見もある。だが、障害者権利条約ではインクルーシブ教育の実現にあたって、「その障害児が必要とする合理的配慮が提供され、支援を受けられること」となっている。このため、「人工呼吸器とともに生きる バクバクの会(人工呼吸器をつけた子の親の会)」では、全国の人工呼吸器装着児を受け入れた地域の学校の事例を蓄積している(『バクバクっ子、街を行く! 人工呼吸器とあたりまえの日々』バクバクの会、本の種出版)。(記事『重症心身障害児が普通学級で学ぶのは本当に困難なのか』

 どのような合理的配慮が考えられるかという授業を工夫する事例集等(『つまり、「合理的配慮」って、こういうこと?!』、現代書館)も出版されている。

 文部科学省(以下、文科省)の調査結果(2015年)では、地域の小中学校へ通学していた人工呼吸器装着児は47人。2019年からは文科省が特別支援学校に加えて、地域の小中学校でも医療的ケアが実施できるよう予算を確保している。