主体は政府ではなく都道府県知事
強制力のない「要請」と「指示」

 そもそも、この法律を根拠に興行を中止させようとした場合、中止させる主体は政府ではなく都道府県知事になっています。その都道府県知事がどのような措置を取れるかというと、施設の管理者またはその施設を使って興行を主催する者に対し、まず興行の中止などの“要請”を行うことになります(第45条第2項)。

 主催者などがその要請に応じない場合には、都道府県知事は、感染症の蔓延の防止や国民の生命・健康の保護などのために“特に必要があると認めるときに限り”、興行の中止などを“指示”することができます(第45条第3項)。

 それ以外に政府が取り得るアクションについては、何も規定がありませんので、仮に緊急事態宣言が出ていても、興行の自粛については、興行施設が地元にある都道府県の知事しか具体的なアクションを起こせず、政府は何もできないという結論になります。

 かつ、そのアクションの中身としてまず想定されているのは“要請”で、特に必要があると認められる場合でも興行の中止を“指示”しかできないという問題もあります。

 そもそも中止の必要性を証明するデータなどを用意するのには、ある程度の時間がかかるはずです。そして、“指示”というのは“命令”よりも強制力と拘束力がかなり落ちます。実際、この法律の罰則規定(第76〜78条)には興行の中止に従わなかった場合は含まれていませんので、仮に都道府県知事の指示を無視して興行を強行した場合でも、政府は興行の主催者を罰することはできません。

 ちなみに法律上は、都道府県知事の要請または指示によって興行を中止した場合でも、主催者が被る経済的損失が政府または都道府県によって補填されないと考えるべきでしょう。第62条が定める損失補償などの対象に興行の中止は入っていないからです。

 したがって、興行を中止させられて主催者が損失を被った場合、主催者ができる対応は、憲法第29条(財産権)を根拠に国を訴えて損失補填を請求する程度になるかと思います。当然ながら、訴訟にはすごく長い時間と多大なコストがかかるので、自転車操業の格闘技団体の主催者がそれをやることは、特に倒産してしまったら事実上ほぼ不可能です。