「もはや時間の猶予はない。国民生活や国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れがあり、緊急事態宣言を発出することとした」
首相の安倍晋三は4月7日午後7時すぎ、記者会見で国民に向けてこう呼び掛けた。宣言発令は8日午前0時。戦後75年、日本が初めて経験する「緊急事態宣言下」の日常が始まった。発令の直接のきっかけは5日に東京都内の新たな新型コロナウイルスの感染者が143人となり、2日連続で100人を超えたことにあるが、果たして安倍が積極的にゴーサインを出したかとなると、なお疑問が残る。143人の感染者確認が報告された直後ですら政府高官は宣言発令にむしろ消極的だった。
「懸念すべき数字ではあるが一気に感染爆発につながるとは考えていない」
自民党も直ちに緊急事態宣言に向かうとは考えていなかったようだ。安倍が宣言発令に消極的な理由について3点が指摘されていた。(1)日本経済に深刻な悪影響を与える、(2)宣言を発令しても事態はそれほど変わらず期待外れの批判が出かねない、(3)政府の専門家会議内の意見が分かれている──。
しかし、宣言発令を求める“安倍包囲網”は日を追うごとに狭められていった。その急先鋒が東京都知事の小池百合子だ。5日午前に出演したNHKの「日曜討論」で、小池は感染症問題担当相の西村康稔、厚生労働相の加藤勝信、さらに政府の諮問委員会会長の尾身茂を前に言い放った。
「いざというときの特別措置法であり、今が『いざ』ではないか。都としても態勢を整えている」