コロナによる閉じこもり生活は、人の心を痛めつけるPhoto:PIXTA

不安、イライラ、怒り、ヒステリー…外出・移動・仕事等の制限が、人の心に悪影響をもたらすことは、多くの学術研究や民間調査が指摘するところであり、パリで1カ月以上の軟禁生活の渦中にいる筆者の実感でもあります。今回のコロナ渦のさなか、世界各地でアルコールやタバコへの依存、DV、児童虐待、自殺の増加が懸念されています。これは日本でも目をつむっていられない問題です。本稿では、難禁生活の長期化が人々の心をどう悪化させるか、その結果どのような社会問題が起きているかについてフランスを中心に客観的事実をお伝えします。(Nagata Global Partners代表パートナー、フランス国立東洋言語文化学院非常勤講師 永田公彦)

閉じこもり生活は精神的苦痛を高める

 感染症対策として外出・移動・仕事などの活動制限を受け、自宅に閉じこもった生活が、精神的苦痛につながることは、多くの学術研究論文が指摘しています。

 その中で、まず今回の新型コロナウィルスに関連した調査研究結果として、上海交通大学医学院の仇剣崟博士を中心とする研究グループが、先月6日に英国の医学誌BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)を通じ発表した論文を紹介します。

 新型コロナウィルス発生源の湖北省武漢市を含む36地域(省・自治区・直轄都市)と香港、マカオ、台湾の5万2730人からオンラインで得たデータを元に、非常事態下での人々の心理的苦痛の状況を分析しています。データは、1月31日(中国での感染者数が約1万人に達し、世界保健機構が「感染状況に対し国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した日)から、2月10日(中国での感染者数が4万人超え)に集められています。

 同論文によると、回答者の40%が(うち5%が強度の)心理的苦痛を抱えている、男女別では女性に多く、特に感染者数が多い地域、年齢では18~30歳と60歳以上に多い(逆に18歳以下が最も少ない)との結果が出ています。また、心理的苦痛の程度と外出移動制限の厳しさの関連性について筆者が仇剣崟博士に確認したところ、都市封鎖による外出と移動の制限が最も厳しかった湖北省を中心に、華中地域で値が高くなっていることから、関連性は十分にあり得るとのことです。