新型コロナウイルスの感染拡大を受け、大型の経済対策を講じてきた米国で、景気の落ち込み度合いに合わせて、自動的に対策を継続・強化する仕組みに関心が寄せられている。財政の自動安定化機能を強化し、政治が動けない場合でも対策を調整していく手法は、「コロナ後」にも適用可能な危機への備えといえそうだ。(みずほ総合研究所調査本部 欧米調査部長 安井明彦)
米国で迫る首都機能の停止?
対策が急務なのに集まれない議会
米国では、新型コロナウイルスの感染拡大が、首都ワシントンD.C.周辺でも目立ってきた。近隣のバージニア州、メリーランド州を加えた地域では、4月14日に死者の数が500人を超えている。ワシントンD.C.のバウザー市長は、ソーシャル・ディスタンスなどの対応が徹底されるという前提でも、感染のピークは5月末頃になるとの見通しを示している。
政治の中心であるワシントンD.C.周辺で感染拡大が深刻化すれば、今後の経済対策などを決める政治の機能が危うくなる。これまで米国は、矢継ぎ早に大型の経済対策を打ち出してきた。厳しい党派対立のなかでは異例といえるスピード感だが、これで十分というわけではない。
景気の悪化が長引けば、これまでの対策の延長や拡大は不可避だろう。まして、感染が落ち着いた後の経済復興まで見据えれば、政治が動かなければならない局面はしばらく続く。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、容赦なく政治の中枢に迫る。イースターの休会に入っていた米議会は、すでに4月20日に予定していた審議の再開を5月4日に延期している。必要があれば休会中でも議員をワシントンに呼び戻す構えだが、感染状況が深刻化しているなかでは、全ての議員が集まるのは現実的ではない。
こうした状況は、今後の対策の実施を難しくする。米議会の手続きでは、たとえ圧倒的な多数の議員が賛成していたとしても、たった1人の議員が異議を申したてただけで、全会一致とみなして形式的に審議を進めることはできなくなり、定足数を満たすために半数以上の議員がワシントンに戻らない限り、法律は可決できなくなる。実際に、3月27日に成立した各家庭への現金給付などを含む第三弾の対策(CARES法)では、1人の下院議員の要求によって、各地から必要最低限の議員がワシントンに駆けつける事態となった。
政治が機能不全に陥るリスクが現実味を増すなかで、議員が地元からオンラインで投票できる仕組みを模索する動きが加速している。ただ、憲法上の規定との整合性が確保し切れていないなど、実現へのハードルは残る。