写真 加藤昌人 |
いまや150ヵ国に競技人口が広がる空手の国際試合で日本人選手が優勝するのは、柔道以上に難しい。2分間で「突き」と「蹴り」のポイントを競う組手では、手足が長く、体力に勝る欧米勢がなおさら有利だ。にもかかわらず、荒賀知子は2004年、2006年と世界選手権で二連覇を果たした。
最軽量の53キロ級で166センチメートルという長身は珍しい。だが、圧倒的な強さをもたらしているのは、恵まれた身体能力だけではない。先手必勝といわれる空手で、「後の先」を得意とする。相手が先に仕掛けてくるのを待ち、守りに隙ができたところに、神速の突きを打ち込む。相手の息づかいまで聞こえる緊迫感、先手を決められるのではないかという恐怖感に耐え、相手の動きを読み、じっとその瞬間をうかがう。その精神力と判断力こそ、彼女を世界女王たらしめている最大の武器だ。
大学2年生で初めて世界選手権を制した後、極度のスランプに襲われた。上るべき頂がなくなった空虚感、負けるわけにはいかない重圧感。自分を見失い、小さな大会ですら勝てなくなった。だが、この敗北感が勝利への渇望に変わり、2年後、再び世界の頂点に立つ。
今年11月、東京・武道館で世界選手権が開かれる。2連覇達成は荒賀を含め過去に3人いるが、三連覇は前人未到だ。「今度はチャンピオンではなく、チャレンジャーとして試合に臨む」。もうプレッシャーはない。
(ジャーナリスト 田原 寛)
荒賀知子(Tomoko Araga)●空手家。1985年生まれ。師範である父の道場にて、3歳で空手を始める。高校1年生で史上最年少のナショナルチーム・メンバーとなり、京都産業大学進学後、2004年メキシコ大会、2006年フィンランド大会と、組手53キロ級で世界選手権2連覇。2006年12月、アジア大会で金メダル獲得。