認知症,御坊市
収穫したスターチスを花束にまとめる認知症の当事者たち。御坊市のデイサービスで 写真提供:御坊市

 第5条の「社会参加」は現実に動き出している。市内で育てる生花スターチスは全国一の生産量を誇るが、その収穫に認知症の人たちが毎年携わる。ビニールハウスで採り、花束を作り、農協に持ち込む。こうした活動が、「認知症の人とともに築く総活躍のまち」という条例名に結実した。

 各自治体の条例名を見ると、神戸市や島根県浜田市のように「やさしい」の言葉が盛り込まれている。本文でも使われることが多い。だが、御坊市の条例には「やさしい」が見当たらない。当事者から「やさしいという言葉は守ってもらうイメージ、支えられると感じてしまう。私たちは守られるだけの立場ではない。一緒に地域を作っていく仲間です」と異論が出たという。
 
 こうした認知症当事者の気持ちを考えていくと、認知症の人へのきちんとした向き合い方が分かってくる。「予防」「家族」「やさしい」の言葉ではなく、それらに代わるのは、「備え」「本人」「社会参加」がキーワードとして登場してくる。

 10月にも施行される東京都世田谷区の骨子案では、「予防」でなく「備え」とし、「やさしい」という表現はない。昨年、ワークショップを2回開き、区民当事者からの意見を求めた。御坊市に近い発想で作成している。

認知症,御坊市
昨年11月29日に開かれた「ごぼう本人サミット」での記念撮影。御坊市のカフェ「倉庫ミュージアムWAWAWA」で 写真提供:御坊市

 加えて、JDWGの「認知症とともに生きる希望宣言」を意識し、条例名に「希望」を盛り込み、区民に「私の希望ファイル」の作成を提言している。「私の希望ファイル」は、「希望する生活に係る意思決定」のことで、従来の「ケアパス」にあった「私の覚書」を「充実させ拡大させたもの」(同区介護予防・地域支援課)と言う。「エンディング・ノート」の認知症版といえるが、どこまで本人の思いを書き込めるのか注目したい。

 だが、第5条の標題「区民の参加」の中で、「本人は体験、考え、意見等を…発信するよう努める」とあるが、残念ながら、本人を区民の一員として組み込んでしまった。「本人だけにスポットを当てない方針です。対象はすべての区民という考え方です」(同)。御坊市がうたう「本人視点」には今一歩及ばない。

 国連の障害者権利条約をはじめ、その趣旨を受け入れた改正障害者基本法でも明らかなように、当事者の視点から社会保障を語るのが国際的な流れである。御坊市の条例には、条例の域を超えて認知症に向き合う際の普遍性が込められている。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)