ネット上に流出した「農業銀行デジタルウォレット」のスクリーンショットを見ると、その主な機能は銀行の電子口座の日常的な支払いや管理機能と基本的に似ており、トップページに「スキャン決済」「送金」「受取・支払」「一括」という4つの共通機能が表示されている。

 最も意外だったのは、受け取る場合も支払う際も、銀行口座を使う必要がないことだ。 現在、ウィーチャットペイやアリペイ、または日本でよく使われるアップルペイやラインペイなどの電子マネーを使うときは、銀行カードとリンクしなければならないが、DC/EPはそれを必要としない。 デジタルウォレットにデジタル通貨をチャージしておけば、ユーザー間の相互振替で銀行口座を経由する必要はない。これが、DC/EPが紙幣のように流通することができるというメリットだ。

 またデジタル通貨では「ダブル・オフライン決済」が可能なので、匿名決済のニーズを満たすことができる。 犯罪行為でない限り、他人に知られたくないような消費をするために使うことができる。 一方、アリペイやアップルペイなどの現在の電子マネーは、従来の銀行口座システムと密接に結びついており、いずれも実名決済であるため、匿名のニーズを満たすことはできない。

 中国で研究が進められているこのデジタル通貨は、現金通貨と同じように、中央銀行から商業銀行へ、商業銀行や商業機関から大衆へといった「二層運営」方式を採用している。 デジタル通貨は大衆に向けて直接発行されない仕組みになっている。利用者は商業銀行に行く必要はなく、アプリをダウンロードして登録すれば、このデジタルウォレットを利用できる。

インターネット経済での中国優位は
世界に間違いなく革命をもたらす

 デジタル通貨が登場すると、オフラインでの支払いが可能になり、プライバシーなどの個人情報関連の安全性が向上し、利用範囲も拡大する。しかも銀行口座との連携が不要なので、匿名性も保つことができる。そのためデジタル通貨の普及により、銀行や現在のネットにおける決済手段の利用規模は大幅に縮小する可能性がある。

 中国人民銀は、「デジタル通貨はまだ試行段階にあり、量的には限られた存在で、短期的にデジタル通貨を大量発行して全面的に普及させることはなく、通貨の流通速度も正常な水準を維持する」との見通しを示している。しかし、デジタル通貨がいったん市場に投入されたら、世の中には間違いなく大きな革命が起きるだろう。

 コロナ禍で経済が挫折した中国は、コロナの感染拡大をほぼ解決できた今、インターネット経済分野の最先端を走る姿勢をこれからも保つことに力を注いでいる。デジタル通貨の研究と試用は、まさしくその姿勢と意思を表したものだと思う。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)