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スマートフォンの理想と現実

ゲームのルールは変わった――アップルvsサムスン訴訟の評決が意味するもの

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第32回】 2012年8月30日
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 従来、こうした製品・サービスの開発において、技術調達や市場の拡大を狙う時には、M&Aやバイアウトといった手法が一般的だった。これはつまり、会社ごと(あるいは部門ごと)という単位で買収を進め、競争優位性を得るというものである。

 しかし一連のアップル対アンドロイド陣営の係争の中ではっきりしたのは、売買の対象(あるいは単位)が、企業ではなく知的財産権となった、ということである。

 もちろん知的財産権の売買は以前からあったし、たとえば知財プールという形のいわばバルクセール的な手法も存在していた。また単純な売買ではなく、貸し借りやクロスライセンス等での相互利用等、粒度が小さいがゆえにより柔軟に運用できることで、いろいろな手法やテクニックが存在していた。

 こうしたもともとの知的財産権の成熟を背景に、FRAND特許の活用などを含め、それを徹底的に使いこなし、法廷での係争を取引の材料やレバレッジにして、知的財産権の売買を進めたのが、今回の両陣営に共通する手法であった。

 むしろ、グーグルによるモトローラ・モビリティのようなM&A案件は、今回に関してはあくまで知財の取引の副産物であったような印象さえある。買収された後の同社で進められる、世界中の拠点の統廃合や、全体の25%程度にあたる合計5000人弱のドラスティックなリストラの展開を見ると、その印象は一層強まる。

 裏返せばこれは、一部の優秀なエンジニアが汗水流した結晶こそが価値であり、それ以外はいらない、ということである。そしてこれは、ソフトウェア中心時代の現実なのかもしれない。

 アップルは、もとよりハードウェアメーカーであり、売上構成を見れば現在もそのビジネスモデル自体は変わらない。しかしその歴史を紐解けば苦難の連続であり、倒産寸前まで追いつめられた時期もあった。

 そうした苦しい経験から今日の彼らの巧みな戦略があるのだろうし、それ自体は立派なものである。しかしそれが現在の施策の背景だとすると、これはそうそう見習えるものではない。また仮に、すべてのプレイヤーがこのルールでゲームをはじめると、ごくわずかのエリート・エンジニアと大量の中国人労働者しか、世界には残らないということになる。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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