『デカメロン』は
ステイホームの物語

世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU（立命館アジア太平洋大学）学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ＝ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか？
直木賞作家・作詞家のなかにし礼さんが激賞、脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が「100年残る王道の1冊」「2019年で一番の本」と断言した『哲学と宗教全史』が、2400円＋税という高額本にもかかわらず9万部を突破。「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」では総合グランプリ第6位、リベラルアーツ部門第2位となった。本連載も累計130万PV（ページビュー）を突破した。
「日経新聞」「日経MJ」「朝日新聞」「読売新聞」「北海道新聞」「中国新聞」「京都新聞」「神戸新聞」「中日新聞」で大きく掲載。“HONZ”『致知』『週刊朝日』『サンデー毎日』「読売新聞」でも書評が掲載され、話題となっている。
今回もダイヤモンド経営者倶楽部「特別定例会」で行われた出口氏の講演「グローバル人材と日本の課題」の様子を特別にお送りしよう。

14世紀のペストを描いた『デカメロン』

前回、「コロナウイルスは新しいウイルスですから、現在はワクチンも薬もありません。

対策としては、ウイルスは人間を介して移動しますから、ワクチン等ができるまでは、ロックダウンもしくはステイホーム以外の対応策はないわけです」という話をしましたが、これは14世紀に発生した「ペスト」の場合でも同様でした。

14世紀のペストを描いた、ジョヴァンニ・ボッカッチョ（1313-1375）の代表作『デカメロン』は、ステイホームの物語です。

この本を読めば、悲観からは新しいものは何も生まれない、大変なときこそユーモアや笑いが大切だということがよくわかります。

ステイホームは、必然的に3つの問題を惹起させます。

1つ目は、市民にステイホームをどうやって納得してもらえるかです。

ところで、世の中には、ステイホームをしたくてもできない人たちがいるということを忘れてはいけません。

エッセンシャル・ワーカー、もしくは「キーワーカー」や「クリティカルワーカー」などとも呼ばれていますが、これは医療従事者やスーパーで働く人たちなど社会に必要不可欠な人たちのことです。

ステイホームできずに働いてくださるこの方たちがおかげで、私たちは安心してステイホームができるわけですから。

2つ目は、エッセンシャル・ワーカーたちに対する感謝と支援をどうやって行うか。

そして、3つ目は、社会的弱者への所得の再分配をいかに迅速に行うかです。

ステイホームは、マクロで見れば仕事をしないことを意味します。

建設現場などの肉体労働はテレワークはできません。この人たちがステイホームすると収入がなくなります。

そのしわ寄せは、パート・アルバイトなど非正規の社会的弱者にしわ寄せがきます。

ですから、政府は緊急に所得の再分配政策を設計・実行しなければなりません。

コロナが生み出した3つの課題

下記の3つは、世界共通の課題となっています。

1.市民にステイホームをどうやって納得してもらえるか
2.エッセンシャル・ワーカーに感謝や支援をどうやって行うか
3.社会的弱者への所得の再分配をいかに迅速に行うか

これらの課題に全世界のリーダーは全力で取り組んでいます。

今はインターネットのおかげで、全世界の状況が瞬時にわかります。

みなさんもテレビを見ていると、トランプよりしっかりしたリーダーは世界中にいるなあとか、うちの県知事は他の知事より結構しっかりしていてよかったなあ、などといろいろ比較できるわけです。

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続きは次回にしましょう。

過去の僕の『哲学と宗教全史』全連載は「連載バックナンバー」にありますので、ぜひご覧いただき、楽しんでいただけたらと思います。