危機に動じないことが長期投資家には大切

奥野 私どもがNVICで長期投資を始めて13年が経過したのですが、この間にリーマンショック、東日本大震災、欧州金融危機など株価が急落する場面を見てきました。だから今回のコロナショックについても「また来た、また来た」というような既視感があります。2月、3月に株価が大きく下げた時、大勢の投資家は持っていたポジションを投げたのですが、逆に私たち長期投資家にとって、あの場面はチャンスでした。本当に良いビジネスを買っておけば、株式市場の需給関係が正常化した時、それがリターンにつながります。その意味では株価の急騰、急落に対して常にノーマライズできる状態に自分を置いておくことが、長期投資家としては大事だと考えています。

朝倉 確かに、価値に対する自分の軸を持っておかないと、下がっている時はそのまま下がり続けるから買えないといった発想になってしまいますし、上昇局面が続くのを当たり前だと思っていると、下げに転じた時、不必要に狼狽してしまうことになります。

奥野 人間って物事を見る時、今起こっていることを重視し過ぎる性癖があります。それも身の危険がある時ほど、物凄く増幅されて正常な判断が出来なくなります。しかも個人のメディア化によって、SNSを通じて本当かデマか分からない情報が日々、垂れ流されています。それに振り回されないようにするためには、数字でファクトをきちっと押えるのと共に、パンデミックを歴史的な観点で見ることでしょう。そうすれば正常な判断が出来るはずです。正常な判断能力さえ持ち続けられれば、振れ幅が大きくなる分だけ投資する側にとってはチャンスになります。

朝倉 そうですね。今回もアフターコロナ、ウィズコロナという言葉が乱舞して、いよいよ社会が大きく変わるといった話を方々で耳にします。では、本当に世の中は大きく変わるのでしょうか。もちろん何も変わらないことはないのですが、巷で話されているようなSFチックな状況にもならないのではないかと思います。恐らく何も変わらないのと、SFチックなことが起こることの中間あたりが、現実的な落としどころになるでしょう。たとえば今回、多くの人がZOOMによるミーティングを体験しました。簡単な打ち合わせはオンラインミーティングで十分という認識が一般的になり、これからは無用な出張や、顔を合わせたミーティングは減るでしょう。でも、すべて在宅になったり、一気に地方への移住が進んだりするというのも、また違うと思っています。対面の方が有効なこともありますし、恐らく週4日は出社して、残り1日は在宅勤務というのが現実的でしょう。オフィスが全く不要になるなんてことは起こりません。

コロナ危機でも、人に会うことが付加価値を生み出す<br />朝倉祐介×奥野一成「教養としての投資」対談(前編)
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社)など。