それでも私は人に会うべきだと思う

奥野 業種や仕事の内容によって、リモートワークに適しているもの、適していないものがあると思うのです。たとえば1のものを効率よく、早く造る仕事にはリモートワークが向いているでしょう。しかし、私どものような投資会社の仕事は、たぶんリモートワークを導入して効率化を図ることが、必ずしも正しいとは限らないと思います。経営者やアナリストと対面で話を伺い、そこから発せられる熱量をどれだけ感じ取れるかが、投資先を見極めるうえで重要な意味を持ってくるからです。人と会うことによって、この企業にも当たって話を聞いてみようとか、他の人にも会ってみようという連想が秒単位で浮かんでくることもあります。これを私は「球際」と表現しているのですが、球際を見極めて1を1.2にするような仕事は、やはり人に会わないと出来ません。非効率を甘受してでも、1を1.2にする。この0.2こそが私たちの付加価値なのです。

朝倉 ベンチャーキャピタル界隈でも、創業者に会わずに投資できるかというのは今、ホットな話題です。私たちのファンドはグロースキャピタルであり、レイトステージの企業に投資しますから、投資する件数も1桁ですし、投資先候補もそんなにありません。でも、シードやアーリーステージの企業に投資するベンチャーキャピタルになると、草の根を分けてでも面白い経営者を探してくる必要がありますし、投資件数も多くなります。そもそもプロダクトも事業もまだ存在していないような企業に投資するわけですから、経営者という人そのものに対して投資するのと同じことなので、やはり直接会わないと投資判断は難しいだろうとは思います。

奥野 アーリーステージの企業は仕組みではなく人に投資するわけですから、会わないと始まらないでしょうね。私たちは逆に大企業が大半ですし、人よりも仕組みに投資しますから、人に会うのがマストというわけではないのですが、それでもやはり会いますね。

朝倉 奥野さんが「人と会わなければならない」とおっしゃるのは、非常に示唆深い話です。上場株の運用であれば、ともすればデスクトップデューデリジェンスでも企業を選別できるかも知れないのに、それでも会いに行くというのは、どういうことなのでしょうか。

奥野 投資先が大企業だとしても、私たちは工場を見学させてもらうことが大事なのです。誰がどういうものを作っているのかを知りたい。「金融業界の人間がモノづくりの現場を見て何が分かるんだ」という声もありますが、全く見なかったらゼロはゼロでしかありません。ほんの少しでも自分の目で見て、食品、半導体、自動車など、いわゆるメーカーと呼ばれている企業を同じテーブルの上に乗せて比較して、初めて分かることがあります。その積み重ねが0.2の付加価値を生み出すのです。

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