発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。連載一覧はこちら

「自分から学ぶ力」がない人に、決定的に足りていないモノ

生き抜くためには「A4用紙1枚にまとめる力」が必要だ

 現代において、何かをつくり出すための根源的なツールとは「知識」だと考えて、まず間違いはないでしょう。学校や受験といったいわゆる「お勉強」に限らず、この社会で自立して生きていくためには、「知識を手に入れ、まとめ、行動する」必要があります。僕の金融機関時代の先輩が

「どんな問題も、A4用紙1枚に書き表すことができれば、8割解決している」

と教えてくれましたが、この能力が必要とされるのは仕事だけではありません。10歳でも34歳でも60歳でも、年齢や職業、業種などにかかわらず、(働いていなかったとしても)誰にでも求められます。

 たとえば、インターネットの通販サイトを見比べてお買い得なパソコンをひとつ買う。生活保護を受けたいので、国や自治体のウェブサイトから情報を集める。これも知識を手に入れ、まとめ、行動することで実現します。この能力の差が人間の人生にどれだけ大きな違いをもたらすかは、想像に難くないでしょう。

 もちろん、この能力には大きな個人差がありますが、一方で訓練によって確実に伸ばしていくことが可能なものでもあります。

ちゃぶ台だと人は勉強しない

 知識を手に入れること、訓練することは自宅に机やイスがなくても十分可能だ。そう考える人は多いかもしれません。それが、大きな落とし穴なのです。

 僕はかつて補習塾の講師をしていたことがあります。いわゆる、学校の学習についていけない子どもたちをメインの顧客とした学習塾です。学生起業でしたので、学費は極めて安く設定されており(今思うと若気の至りというもので、そのせいでこの事業はのちに継続不能になってしまったのですが)通常学習塾にはあまり来ないであろう階層の子どもたちがそれなりの人数でお客さんになってくれました。そこで気づいたことは、学校の学習についていくことに苦戦している子どもたちの多くは、「学習のための机とイス」を持っていないという事実でした。彼らは、ご飯を食べるためのちゃぶ台(こたつ)しかない家に住んでいたのです。

 どれだけ課題を出してもやってこない子どもたちに、塾が休みの日に「自習室」を開放してあげると、これまで課題をほとんど出さなかった生徒がやってきて、自習を始めることがよくありました。

 社会人の一人暮らし、それも部屋があまり広くない場合、学習用の机とイスはなおざりにされやすいものだと思います。しかし、「自宅で机に向かって学習する」やり方は、誰もが最も集中でき、効率のいい学習の形であると僕には強く感じられます(ちゃぶ台に変な体勢で座ったまま過集中に入ると身体を壊しますし、気が散りやすく過敏な発達障害傾向の方がカフェの雑音に負けずノマドワークできるとは思えません)。

 まずは6畳間の片隅に、「これが俺の知的生産拠点だ」と思える、使いやすく居心地のいい机とイスを置いてみてください。それはあなたの人生に、必ずよい影響を与えてくれます。