自分たちの文化的伝統を踏まえた教育が必要

 自分を過大評価する心理傾向(=ポジティブ・イリュージョン)についての研究からも、人間性の文化差が明らかであると榎本氏は指摘する。

 自分の能力や魅力について、あり得ないほどの過大評価がみられることが欧米の研究データから明らかになっている。それはハッタリをきかせ、自信過剰なくらいでないと生きていけない欧米文化で育つからであって、謙虚さが尊ばれる日本にそのままあてはまるわけではない。

 実際に、日本人に関するいくつかの調査研究によれば、容姿容貌や頭の良さに関しては、欧米人とは逆で、自分は平均以下だと思い込むネガティブ・イリュージョンがみられる。そして、やさしさ・思いやり、真面目さ・誠実さに関して、ポジティブ・イリュージョンがみられたのである。こうした結果は、それぞれの文化で望ましいとされる性質に関してポジティブ・イリュージョンがみられることを意味している。

 日本は敗戦以来アメリカの文化を積極的に取り入れてきたが、だからといって日本人の心がアメリカ人の心と同じになったわけではなく、今でもたとえば謙虚さの美徳は失われていないし、思いやりを大切にする心理傾向も健在だ。そうであれば、教育で目指す人間形成の方向性もアメリカと違っていて当然といえる。

 したがって、能動的・主体的な学びというと、対話的学びや討論、プレゼンテーションなど、積極的コミュニケーションのスキルに結びつける傾向は見直されるべきではないだろうか。

 グローバル化の時代だからといって、欧米流に合わせなければと思うところが、いかにも日本的な発想なわけではあるが、欧米の教育は必ずしも成功していない。そうした現実をしっかりと認識し、自分たちの文化的伝統を踏まえて、私たち日本人の心にふさわしい教育を行っていく必要がある。そのためにも、日本的文化の良さを発信していくことも必要である。

 ビジネスのグローバル化とともに、力ずくでも勝てばいい、言ったもの勝ち、だまされる方が悪いというような価値観が広まっているように感じるが、そのような動きに乗っかって便利な人材になるように促すのでなく、グローバル化といわれる目の前の潮流に疑問を持つ批判的な精神を刺激することも必要だろう。

 教育においてほんとうに大切なのは、自分の頭で物事を深く考える力をつけさせることではないのか。