コロナは音楽を殺すのか#5Photo by Teppei Hori

特集『コロナは音楽を殺すのか?』(全11回)は、レコード会社、プロモーター、ミュージシャン、作詞家・作曲家、舞台スタッフ等、音楽業界のステークホルダーへの取材を基に「有史以来最大規模の危機」に直面する音楽業界の現状に迫る。#05では、ジャズフェスティバル「東京JAZZ」の統括プロデューサー、山中宏之氏が緊急事態宣言中に手探りで準備を進め、トラブル続きの中で本番を迎えたオンラインフェスで得た貴重なナレッジを共有する。(ダイヤモンド編集部編集委員 長谷川幸光)

 2002年の初開催以降、毎年夏に開催される国内最大級のジャズフェスティバル「東京JAZZ」。

 今年は「TOKYO JAZZ +plus」と名称を変えて規模を拡大し、5月22日(金)~24日(日)に開催する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月14日に中止を発表した。

 しかしそのわずか10日後の4月24日に、オンライン上で開催することを表明。ほぼ同じ日程と出演者でオンライン上のジャズフェスティバルを開催し、国内におけるオンラインフェスの先駆けとなった。その経緯を、東京JAZZの統括プロデューサー、山中宏之氏(NHKエンタープライズ)に聞いた。

中止決定から一転、
オンライン開催に向けて動きだす

――「TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM(以下、TOKYO JAZZ +plus )」は非常に好評でした。緊急事態宣言下で多くの人が身動きが取れない中、どのような経緯で開催に至ったのでしょうか?社内や関係者の間で反対はなかったのでしょうか?

山中宏之氏(1)Photo by T.H.

 コロナが猛威を振るう3月24日、東京オリンピック・パラリンピックの開催延期が発表されました。その頃から「5月開催は厳しいのではないか」ということを本格的に関係者間で話し合い始めました。

 海外アーティストの参加も多く、まず日本への渡航が難しい。「では国内アーティストだけで開催するのはどうか」「感染症対策を講じて実施できないだろうか」といったあらゆることを議論しましたが、最終的には「実施は困難」という結論に達したのです。

 ステークホルダーが多岐にわたるので、各所へ次々と中止の連絡をしていきましたが、そのさなかもこのまま中止となることが本当に残念で。私たちスタッフだけでなく、アーティストも、チケットを買ってくださったお客さんも、毎年この東京JAZZを楽しみにしているわけですから。

 コロナの影響で音楽イベントやコンサートが軒並み中止や延期になっている時期でしたので、「今こそ音楽を発信するときではないだろうか」と考えた結果、脳裏に浮かんだのがオンライン上の開催でした。

 2002年からずっと東京JAZZをサポートしてくださっていたセガサミー(ホールディングス)さんに中止をお伝えする際に、里見(治紀)社長へこのアイデアをさりげなく提案してみたのです。すると「こういうときだからこそ、文化を支えないと」ということで、協賛を非常に快く引き受けてくださいました。

 中止の決定から一転、そこから一気にオンライン開催に向けて動き始めました。しかしこのことが同時に、社内外への説得、完全リモートワーク下のブッキング、配信トラブルなど、苦難の連続の始まりでもありました。本番のみが奇跡的に成功したのです。