特集『コロナは音楽を殺すのか?』(全11回)は、レコード会社、プロモーター、ミュージシャン、作詞家・作曲家、舞台スタッフ等、音楽業界のさまざまなステークホルダーへの取材を基に「有史以来最大規模の危機」に直面する音楽業界の現状に迫る。#07では、コンサートプロモーターズ協会(ACPC)会長であり、大手プロモーター会社のディスクガレージで代表を務めた音楽業界の首脳、中西健夫氏に、音楽従事者の現状、音楽業界3団体とのタッグ、ガイドラインを巡る国との交渉、音楽産業の弱点、そしてコロナ後の音楽産業の在り方について語ってもらった。(ダイヤモンド編集部編集委員 長谷川幸光)
「音楽産業」は個々の
特殊なスキルで成り立っている
――ぴあ総研の発表によると、ライブエンターテインメント市場規模は6295億円という過去最高額を更新した昨年から一転、今年は1836億円と前年度比で3割にも満たない水準となる見通しです。コロナ禍で音楽業界は史上最大規模の危機に陥っています。コンサートプロモーターズ協会の会長であり、ご自身もプロモーター会社の代表を務めてこられた中西会長から見て、コロナ禍の影響が甚大な音楽産業において特に深刻な問題は何でしょうか?
われわれ音楽関係者は2月26日、ほとんどのライブを当面の間、中止することを決めました。人の命を守ることを優先して自粛することにしたのです。
しかしその頃はまだ「5月のゴールデンウィークには再開できるだろう」という認識でした。2カ月ほど耐えればこの騒ぎは収まるだろうと。そのときは世の中の誰も、今の状況を予想していませんでしたから。
ところが状況は悪化の一途をたどるばかりでした。再開の見込みが立たないまま、4月の緊急事態宣言。そして「3密」であるとして、ライブハウスが最初に名指しされました。
ライブというのはわれわれの原点です。音楽が始まる、アーティストが育っていくという場が再開できなくなってしまった。
当然、財政基盤が一番弱いところから大変な状況になっていきます。実は音楽産業は、特殊なスキルを持つ専門職の方々に支えられていることもあり、フリーランスで働いている方が多いのです。
例えば舞台製作の方、音響・照明の方、「ローディー」というのですが楽器関係の方、彼らをブッキングする方。そしてバックミュージシャンやバックダンサーなど。今回のコロナ禍で、こうした方々の仕事がほぼ「ゼロ」になったわけです。
ほかの産業だと「売り上げが減りました」「ボーナスが減りました」というケースはあるかと思いますが、われわれはゼロです。当然、ミュージシャンはレコーディングができないし、自宅で演奏してもフリーランスで働いている方々の収入はないまま。ライブを再開することでしか雇用が生まれないのです。
それだけではありません。コンサート関係のスタッフやアルバイトの方もすごく多い。それが学生だと、収入が途絶えて学校を辞めざるを得なくなります。大げさな言い方すると、学生の生活を支えている基盤の一端を、われわれも担っていた。Tシャツやパンフレットなど、グッズ製作会社も作ることができません。