今月開催!フジロック主催者が語る、激動の時代における音楽フェスの役割とは?

国内最大級の野外音楽フェスティバル「フジロックフェスティバル'22」(以下、フジロック)が、7月29〜31日にかけて、新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催される。3年ぶりに海外アーティストを迎えての開催となる。大きな反響のあった特集『コロナは音楽を殺すのか?』から2年が経った。その後、音楽を取り巻く環境はどのように変化したのか? 今回、フジロックを主催するプロモーター会社・SMASHの石飛智紹取締役に、新型コロナ感染拡大以降の運営側の苦悩や葛藤、参加者の高齢化や「完全キャッシュレス化」、そして、激動の時代における音楽フェスの役割について語ってもらった。(取材・文 ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)

なぜできないのか?どうすればできるのか?
ずっと考え、悩み続けた

――コロナ禍前の2019年開催のフジロックでは、前夜祭から4日間で延べ13万人が来場しました。コロナ禍が世界中に広がった2020年は開催を断念し、2021年は開催にこぎ着けましたが、国内の新型コロナの感染者数も多い時期(※1)で音楽フェスに対する世間の風当たりがとても強かった(※2)印象です。また、海外アーティストの来日を断念し、国内アーティストのみでの開催となりました。

 参加を躊躇(ちゅうちょ)または断念されたかたも多かったと思いますが、2021年の来場者数はどのくらいだったのでしょうか。また、その後、感染者拡大やクラスタの発生は認められたのでしょうか。

石飛智紹氏(以下略) 3日間で延べ3万5449人です。内訳は、8月20日 (金)が 1万2636人、 8月21日(土)が1万3513人、8月22日(日)が9300人でした。

 おかげさまで、会期中の会場においては1人の陽性者も確認されませんでした。開催の約1カ月後、NHKが新潟県へ取材したところ(※3)、「フジロックの関係者や来場者の感染が県内では確認されなかった」と県は答えています。クラスタが発生することもありませんでした。

※1 開催初日の8月20日 (金)は、国内の新型コロナの感染者数が2万6000人近くと、コロナ禍が始まって以来のピークであった。その後、ゆるやかに感染者数は減少。2022年1月から再び感染者数のは増加傾向となり、2022年2月に10万6000人近くと、新たなピークを迎えることになる。

※2 SNSで「やはり酒を飲んでいる人たちがいた」旨のコメントとともに、過去に開催されたフジロックの写真をアップし、しばらくすると元の投稿を消去する、というケースも散見された。

※3 参考:2021年9月29日放映「NHK NEWS おはよう日本」内の特集「コロナ禍のフジロック 現場で何が」

――酒類の提供や持ち込みの禁止、すべてのスタッフに事前にPCR検査を実施、観客には希望者全員に抗原検査キットを送付、会場には抗原検査場を設置するなど、さまざまな感染症対策を講じていました。当然、相当の費用を要したと思います。当初から赤字覚悟で、開催することに意義があるという意識だったのでしょうか。

 意義はあったと思います。ただ、最初から赤字覚悟でやろうとしていたわけではありません。

 (コロナ禍が世界中に広がった)2020年は、(新型コロナの感染拡大に対して)私たち音楽フェスの運営側が太刀打ちできるような状況ではまったくありませんでした。今振り返ってもそのように思います。そのため、開催を断念しました。チケットをすでに購入してくださっていた方々には払い戻しをご案内したのですが、払い戻さずに次年度への振り替えを希望する方が半数以上いらっしゃいました。

石飛智紹取締役フジロックを主催するプロモーター会社、SMASHの石飛智紹取締役
Photo by HasegawaKoukou

 翌2021年の開催にあたり、こと感染症対策に関しては、その時々で考えうる、ありとあらゆることをやりました。

 同時期に開催予定だった国内の音楽フェスが早々と中止を発表する中、「なぜできないのか?  どうすればできるのか?」をずっと考え、悩み続けました。「できない」という選択はできる限りしたくなかった。

 それは、コロナ禍が過ぎるのを待つのではなく、今後コロナ禍と付き合いながら、旅行も含めたレジャーという大きな枠組みの中で、どのようにイベントを開催できるのか、将来的にコロナ禍以外の困難も起こるかもしれない、その試金石となることを意識して取り組みました。

 たしかに2020年の時点では、マスクさえ入手が難しい社会状況でしたが、2021年には国内のマスクの供給は安定してきましたし、新型コロナウイルスに関する知見も社会でそれなりに蓄積されてきました。イベントの開催は屋外ですし、皆できちんと対策をすれば、開催できないことはないのではないか、そう思ったわけです。