スタッフと会えないまま
配信当日へ
急きょオンライン開催を決めたので、まったくの手探りです。走りながら同時に考えていくという状態でした。特に、各所との交渉や調整などを全てオンライン上で行わなければならなかったことは、最も苦労しましたね。
4月、5月はえたいの知れないコロナの恐怖が世間を覆っている状況だったので、スタッフとは対面ではまったく会えないまま。ZoomやTeamsを使って皆、自宅で作業をしていましたが、最悪、まったく自宅から出ることができないまま当日を迎えるかもしれません。
アーティストのブッキングや演出、技術的な部分などを全てオンライン上で行うというのはなかなか説明もしづらいし、本当に大変でした。何より、開催まで1カ月を切っている状況でプロジェクトを立ち上げたので、時間もまったくない状態です。
――5月開催にこだわった理由は何でしょうか?
ちょうどその頃、レディー・ガガさんがプロデュースした医療従事者支援のチャリティーコンサート「One World」がオンライン上で開催され、世界中で話題になっていました。その前後から海外ではオンライン上で音楽を発信していく動きが増加し始め、その中で私たちはどのタイミングで実行するべきか、まずはそこで悩みました。
「コロナ禍で多くの人が音楽を楽しめない状況が続いている。それならばできるだけ早く実施して音楽を届けたい――」
スタッフもアーティストも元の日程に気持ちが集中しており、お客さんもきっとそのはずです。「では開催予定であった日程に合わせて実施しよう」と関係者の間で意見が一致しました。企画書の一番初めに書いたのは、毎年、東京JAZZを楽しみにしてくださっているお客さまがきちんと満足していただけるようなものにする。それを第一義として、プロジェクトが本格的に動き始めました。
――ジャズはアーティストとオーディエンスの間の共感が大事かと思いますが、ストリーミング配信という制約の中でその辺りの仕掛けや工夫があれば教えてください。
自宅からのリモート参加によるオンラインイベントも、徐々に珍しいものではなくなってきている中、One Worldや、Blue Note Tokyoさんの有料配信の方法など、ストリーミング配信について研究し、そこからオリジナリティーをどのような形で出すべきか、どうすればオーディエンスやアーティストの双方に共感を生むことができるかといったことを、スタッフの間でずっと考えていました。
悩んだ結果、MC(ハリー杉山さんとセレイナ・アンさん)を立て、番組のようにしっかりとした構成や演出を盛り込んでいく形を取ることにしました。
せっかくこのような構成で進めるので、20年続けてきた東京JAZZの歴史を多くの方に知ってもらう機会と捉え、過去のアーカイブ映像も所々に織り交ぜるという試みも行いました。
何より、やはりジャズフェスとしての演奏は「生の雰囲気」を出したい。それもあってMCやアーティストのトークは生中継し、そこにオーディエンスからのコメントをリアルタイムで表示する仕組みを構築したのです。
さらに、初日に出演してくださったジャズピアニストの小曽根真さんの演奏では、最初の15人のビッグバンドによるリモート演奏は事前収録によるものですが、途中のエリス・マルサリスさん(編集部注・米ニューオーリンズジャズ界のアイコン的存在だったピアニスト。4月1日に新型コロナウイルスによる肺炎で死去した)を追悼する演奏は、曲をささげるという意味でも、完全に生演奏を配信しました。小曽根さんにはすごくがんばっていただき本当に感謝しています。
本番直前まで
トラブル続きだった
――撮影当日にようやくスタッフが一堂に会したのでしょうか?
いえ、当日さえも一堂に会することはできませんでした。MCのいるスタジオが撮影の拠点でしたが、そこも「密」になってはいけない。そのため少数精鋭といいますか、スタッフ1人が5~10役をこなす形でしたので、竹やり部隊みたいな状態で何とかこなしました。皆、本当にがんばってくれましたが、すごく大変でしたね。
――当日の配信ではすごく順調に進行しているように見えました。
あれは本当に奇跡なんです(笑)。実は直前までトラブル続きでした。米ニューヨークの挾間さん(編集部注・ジャズ作曲家の挾間美帆氏)や、カザフスタンのディマシュさん(編集部注・現代音楽と伝統音楽の融合が特徴のカザフスタンの歌手、ディマシュ・クダイベルゲン氏)などのトークは生中継ですので、事前に回線チェックをしたのですが、リハーサルでも全然つながらない。これはやばいぞと(笑)。もはや生中継は厳しいかもしれないと感じていました。
最悪の場合、オンラインではなく電話で声のみ出演していただくことも考え、電話での音声のテストや、その間に映す静止画の写真の準備までしていたくらいです。
また、いろいろと研究した結果、配信のプラットフォームは、権利処理上の都合や世界中の人が参加しやすいということでYouTubeを利用したのですが、プロジェクトの途中で「YouTubeはコロナ禍以降、配信がバン(停止または削除)されることが増えている」という情報が入ってきたのです。
しかも理由はよくわからない。これには困りました。考えられるものとして、配信時に流れる音楽が権利関係を処理しているものなのかどうか、通常は米Googleさんが人為的にもチェックしている部分が、コロナ禍でAIによる自動判別に切り替えたことで、疑わしいものがどんどんバンされるということが起きているのではないかと。あくまで推測ですが。
これは本当に怖い。いきなり理由もよくわからず配信中にバンされたらたまったものではないですからね(笑)。考え得るリスクは可能な限り抑えようと、MCやトーク時には当初予定していたバックミュージックを流すのをやめました。ちょっと寂しくはなりますが、バンされるよりはましだろうという判断です。
配信中もずっとヒヤヒヤしていましたね。幸いにも本番でようやく成功しました。そして、ほぼトラブルなく終えることができたのです。







