本当は全てリアルタイムで
配信したかった
――アーティストの演奏を録画し、それを編集したものを配信する形を取っていらっしゃいましたが、「リアルタイムの演奏の配信」を行わなかったのは何か理由があるのでしょうか?
Photo by T.H.
当初は、コンサートホールやライブハウス、屋外会場等での演奏も配信できるといいなとは思っていたのですが、コロナの状況は悪化の一途をたどるばかり。世の中が緊迫し「ステイホーム」が当然の状況だったので、基本はアーティストのご自宅から演奏する形にしました。
本当は全てリアルタイムで配信したかったという思いはあります。ただ、「東京 JAZZ」を冠したプラットフォーム上で配信するからには、たとえ自宅からであっても「きちんとした演奏を披露したいので事前収録をさせてほしい」というアーティスト側からのご要望が多くありました。
また、インターネット環境というのは通信速度の問題等、さまざまなリスクを抱えています。そうしたリスクをアーティスト側に負わせるわけにはいかず、基本は「事前収録の演奏を編集して配信」としました。
リモートでの同時セッションの
ライブストリーミング配信は可能か?
――オンライン上の複数のミュージシャンのセッションはどうしても音声のズレが生じると思うのですが、どのような工夫をされましたか?
ご自宅で事前収録となると、やはりアーティストごとに方法も違います。「クリック」と呼ばれるガイド音を使ってそれに合わせる方法もあるでしょうし、ドラムやベース、ピアノといった曲をリードする楽器が先にあって、それに合わせてそれぞれのメンバーがかぶせていくといった方法もあります。
「オンライン上の同時セッションをリアルタイムで配信する」という難易度の高い形にもトライしてみたかったのですが、まだそれは世界的にも実現されていませんでした。
もちろん技術的なことも調べました。ヤマハさんの新しいシステム(編集部注・オンライン遠隔合奏サービス「SYNCROOM」)もちょうど完成した時期でしたが、「音はシステムで可能だとしても映像とのシンクロはどうするんだ」とか「テクニカルな部分をアーティスト側に委ねていいものか」など、技術的な部分だけでなく多くの障壁が見えてきました。
アーティスト全員の元にスタッフを派遣することは現実的ではないので、準備を含めアーティスト側の負担も大きくなってしまうのですね。そのため今回は断念し、今後の機会に譲ることにしました。
開催後のニュースや反響を見ていると、やはり「オンライン上の同時セッションをリアルタイムで配信する」試みがなされなかったことを指摘するものも幾つかありました。
でもそれもあって、東京学芸大学の小西公大先生をはじめとして識者の方々との交流が生まれ、「ポスト・コロナにおける音楽について考える」といった勉強会を行うきっかけが生まれました。課題提起という意味でも、こうして次につながるものになったのではないかと思っています。
――緊急事態宣言下の混乱期にわずか1カ月で準備を整えたので、それだけでもすごいことだと思います。オーディエンスからのリアルタイムのコメントも高い評価が並び、中には「チケット代を払いたい」「課金や投げ銭をしたい」といったものも多く見られました。今回の資金はスポンサードのみということでしょうか?
今回のオンラインフェスに関しては、緊急事態宣言前後のコロナ禍が差し迫っている中ですし、中止にしたら皆、心が折れてしまいそうだったので、正直、利益を考える余裕はありませんでした。そのため協賛金の中で何とかやりくりして、企業なので赤字にならずせめてトントンになるように心掛けました。
――無料配信によって東京JAZZのこれまでのファン以外の人々にも訴求できたのではないでしょうか?
そうあってほしいなと思っています。直接的な利益がなくても、未来のための宣伝と考え、「グッドミュージックを紹介したい」というこれまでの東京JAZZのコンセプトを貫きました。
「ジャズミュージシャンってこんなにすごい人たちがいるんだ」「こんな面白い音楽があるんだ」というように、これまでまったくジャズに興味のなかった方々からも多くの反響があり、報われた気持ちです。







