「現場・現実」を知る参謀が、
経営者を守らなければならない

 それは、実に怖いことです。

 鮮烈な記憶として、忘れられないことがあります。

 かつて、経営が悪化した海外企業を買収し、経営統合に動き出したばかりの頃のことです。実際に経営統合を開始するにあたって、調査チームがその会社の実態を調査したのですが、調査結果の報告会において発表された「総合評価」が驚くべきものだったのです。「この会社の経営層は指示待ち族ばかりだ」というのです。

 チームメンバーは異口同音にこう主張しました。

「率直に言って、この会社の社長の意識は別かもしれないが、経営のオーナーシップを失った執行担当の経営層は、自分の頭で考えない、自分の意見を持たない、発言しない、無責任の烏合の衆になっている」

 そして、その主な原因のひとつが、“経営改革”と称して、何社ものコンサルタント会社が入り込んで、全く結果が出ない多くの改革プロジェクトを、彼らの指導の下に何年も延々と続けていたことにあると結論づけたのです。

 大会社が、自らの意思を失った、死にかけた巨象になっていたということですから、実にショッキングな報告でした。そして、その会社との経営統合を始めるにあたって、まず第一に、“経営改革”を担当していたコンサルタント会社との契約をすべて破棄することから着手することにしたのです。

 ただし、このようなひどい事態を招いたのは、コンサルタントのせいではなく、むしろ、彼らの言いなりになって、結果も出ていないのに、ズルズルとコンサルタント契約を続けてしまった経営陣と、その参謀たるべき人々の思考力の弱さに問題があったというべきでしょう。

 必要であれば、コンサルタントの知恵を使うことは何の問題もありません。しかし、コンサルタントは、あくまでも「使う」ものです。意思決定や実行のオーナーシップは「使う側」が堅持しなければなりません。その意識を失ったときに、会社は「意思のない烏合の衆」になり、根本から腐っていくおそれがあるのです。

 そのような事態を避けるためには、自社の「現場・現実」を知る参謀が経営層をしっかり守らなければなりません。その意味で、参謀は、自社の命運を左右する重要な役割を担っているのです。

「コンサルタントに潰される会社」と「コンサルタントを活かす会社」の違い荒川詔四(あらかわ・しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むなど、海外事業に多大な貢献をする。40代で現場の課長職についていたころ、突如、社長直属の秘書課長を拝命。アメリカの国民的企業ファイアストンの買収・経営統合を進める社長の「参謀役」として、その実務を全面的にサポートする。その後、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップの地位を奪還した翌年、2006年に本社社長に就任。世界約14万人の従業員を率い、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけ、世界ナンバーワン企業としての基盤を築く。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。