銀行員完全転職マニュアル#12Photo by Takahiro Tanoue

かつて「一国一城のあるじ」と呼ばれた支店長だが、国内店舗網の再編が進み、誰もが支店長を目指す時代は終わった。そんな中、いまだ多くの店舗を抱えるりそなホールディングスが、単線的に支店長を目指すキャリア形成からの脱却に打って出た。特集『銀行員完全転職マニュアル』(全17回)の#12では、りそなの複線型人事制度の成否を探る。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)

憧れの支店長ポストは存在感が低迷
りそなが打ち出した複線型人事制度

 栄枯盛衰――。この表現に最もふさわしい銀行員のポストを挙げるとしたら、支店長かもしれない。かつて支店長は、支店の取引先とのビジネスに関する全ての裁量権を持ち、それ故に「一国一城のあるじ」と呼ばれた。たとえ、同期のうち一握りだけに許された役員就任という願いがかなわなくても、「支店長になると『よくやった』と周囲に言われる」(大手銀行OB)ほどの存在だった。

 しかし、今から約20年前、金融庁が「金融検査マニュアル」を導入したことで、多くの銀行は画一的に現場を統制するために権限を本部に集中させた。それに伴い支店長の権限は大幅に縮小した。

 変わったのは支店長の権限だけではない。低金利環境の長期化で、融資ビジネスの主戦場だった支店の収益も低迷が続き、支店はコストセンターに転じた。すでに三菱UFJ銀行は6年で約200店舗、みずほフィナンシャルグループも7年で130拠点を削減する施策を打ち出すなど、大手銀行を中心に進んでいる店舗の統廃合により、支店長ポストも減少の一途だ。こうした時代の変化は銀行における支店長の存在感の低下をもたらし、「どこの銀行にも『伝説の支店長』がいた」(メガバンクOB)時代は、昔話になりつつある。

 こうした構造変化に直面する中、グループ全体で約830店舗という国内最大の店舗網を持つりそなホールディングス(HD)もついにある制度改革に打って出た。それが、今年の中期経営計画で掲げた「複線型の人事制度」の導入だ。「支店長ポストを(銀行員人生のゴールとして)みんなが目指すという単線に近いようなかたちでは難しい」と、南昌宏・りそなHD社長は導入の背景を説明する。