経済産業省経済産業省が謳歌した“春”も終わりを迎えそうだ Photo:PIXTA

安倍晋三総理大臣が辞任すると発表した28日、後任となる総理の座をめぐる戦いの他に、もう一つの戦いが始まった。霞が関における官僚たちの権力争いである。安倍内閣に重用されて、権勢を誇ってきた経済産業省を引きずり降ろそうと、財務省をはじめ各省庁が動き始めた。遅れてやってきた「官僚の夏」といった様相を呈している。(ジャーナリスト 横田由美子)

経産省の“春”も終わり
財務省の下克上始まる

 8月28日は、歴史に残る日となった。

 安倍晋三総理大臣の在任期間が、憲政史上最長となったのは、そのわずか4日前のこと。一転して、持病の潰瘍性大腸炎の再発による辞任の速報が流れたのは、午後2時過ぎのことだった。その瞬間、それまで上昇気流に乗っていた株価は、一期にマイナスに転じ、午後3時の日経平均の終値は、326.21円安だった。

 午前中には、麻生太郎副総理兼財務大臣が、太田充財務次官と矢野康治主計局長を連れだって、官邸を訪れ、厳しい表情で去る姿が目撃されている。恐らく、彼らはこの時、「総理の辞意」を明確に知らされたのだろう。

 それでなくとも、新型コロナウイルスの感染拡大と長期化が原因で、飲食やアパレルなどを中心に倒産が相次ぎ、日本経済は一部のIT企業を除いて、極めて厳しい状態が続いている。しかし、実体経済と乖離するように、株価は乱高下を続けながらも上昇し、うまく波乗りできている投資家や産業界の人にとっては、市場は、「プチコロナバブル」の様相を見せている。

 午後5時からの記者会見は、前日の夕方、急遽決まったものだ。官僚の中でも、極めて総理に近い経済産業省を中心とした最側近の官邸官僚にしか、辞任会見について知らされていなかったという。だが、急な辞任によって、市場の反応がどう転ぶか分からない。財務省・金融庁の担う役割は極めて重いものとなる。それ故、次官と主計局長が同行することとなったのではないか、と経産省幹部はみる。

「今回の経産省の“我が世の春”はあまりに長かった。幹部も含めて中堅も、驕り緩み切っている。今井尚哉秘書官は、初めから『総理と骨を埋める』と言っていたが、残された人たちはそういうわけにはいかない。GoToキャンペーンの失敗をはじめ、責任はうちがとることになるでしょう。財務省が再び、経済・金融政策の中心に躍り出る、ということです」

 経産省幹部はこれから吹き荒れる粛清の嵐を思い、長いため息をついた。