コロナ禍で明暗分かれる東京の中華料理店、 生き残りをかけた「外売」事情銀座にある「四季・陸氏厨房」(写真:著者提供)

政治家・加藤紘一氏が亡くなり4年
彼が愛した中華料理店へ

 9月9日、東京都中野区での打ち合わせを済ませてから、帰り足に任せて、千駄ケ谷駅で途中下車して、駅の近くにある中華レストラン「猪八戒」に立ち寄った。街角によく見られる中華レストランと大差はないように見えるが、元自民党幹事長を務めた加藤紘一氏の生前のお気に入りの店として、知る人ぞ知る存在だ。数年ぶりの再訪であるにもかかわらず、店のオーナーの銭亜博さんは満面の笑みで迎えてくれた。

 その日は加藤氏の命日で、今年で逝去して4年がたった。数年ぶりに「猪八戒」ののれんをくぐったのも、故人への追悼の意からだ。席に着き、料理の内容はお任せ…と言いかけたところ、あることを思い出し慌てて注文を変えようとした。そんな私の心が読めたのか、銭さんはすかさず店長に「加藤先生が生前、よく頼んだものでいい」と指示を飛ばした。しばらくしてから、清炒豆芽(もやしの五目炒め)、油爆茄子(ナスの揚げ炒め)と小籠包や油煎ワンタンなど、加藤氏がよく注文したという定番料理が運ばれてきた。いずれも庶民的な味で、加藤氏の人柄が浮かび上がってくる。

 新型コロナウイルスの影響で、外食産業は苦しい状況が続いているが、「猪八戒」も例に漏れず、傘下にあるほかの3店舗を閉店する羽目に追いやられたそうだ。「今は小籠包や料理の『外売』にも力を入れている。この店だけは最後まで死守したい」と銭さんが言う。

 ここで言う「外売」とは、デリバリーやテイクアウト、通信販売といった販売形態のすべてを含む中国語の表現だ。一方、店内で食事をする顧客への販売は「堂吃」と表現する。

他の料理店との差別化
通信販売で経営危機から脱出

 生活の基盤である、この料理店を死守しなければならない…。心から押し出されたかのような言葉を、これまで何回も聞いた。

 東京・錦糸町。自宅の近くにある中華レストラン「百宴香」のオーナーからもこのような発言を聞いたことがある。オーナーの魯夫婦と一人娘の生活はすべてこの店の売り上げに支えられている。厨房の仕事を一手に引き受ける旦那の魯さんは体が弱い。奥さんの楊暉さんは、店の経営を考えなければならない。コロナの影響で、一時、営業ができなくなり、娘の学費はどうしようなどと焦った。そこで、すぐに外売へと方向転換を図った。数年前から手掛け始めた、ちまきやワンタンなどの外売に活路を見いだそうとしたのだ。