タダシさんは10代の頃から強度の近視で、裸眼視力は両目とも0.1もない。家にいる時はメガネで過ごしているのだが、近く以外はいつもぼやけており、テレビの画面に映し出されるテロップは読めない。それが普通で、仕方ないと思っていた。若いころにはレーシックに憧れたこともあったが、目にメスを入れるのはどう考えても怖いし、失敗談などを週刊誌で読むと、どうしても踏み切れないまま現在に至っていた。

「手術ですか。それ以外ないんですよね。薬では治療できないんですね」

「そうですね、白内障は薬では予防や進行を抑えることはできても、治療はできません。目の水晶体という部分のタンパク質が変性し濁ってしまう病気なんですが、治療するには水晶体を人工の眼内レンズと交換するしかありません。

 高齢者の病気というイメージがありますが、実は50代の3~4割の人が発症しています。手術は国内で年間140万症例も実施されており、外科的手術の中でも最も多い部類に入ります。

 日帰りでできる目への負担の小さい手術ですし、保険が適用される単焦点レンズなら、片目5万円ぐらいで手術できます。当院でも大勢の方を手術していますのでご安心ください。自由診療の多焦点レンズをご希望の場合は大学病院をご紹介します。ご検討ください」

「あの、緑内障のほうはどうしたらいいんでしょう」

「今はまだ治療の必要はないと思います。白内障の手術が終わったら、予防のための治療をしましょう」

保険適用の多焦点レンズ
探すと1種類だけ見つかった

 1週間後に、手術前の精密検査を受ける予約をし、帰宅した。免許更新のためには、手術以外の選択肢はなさそうだが、やはり怖い。恐怖心を軽減させるため、白内障の名医が書いた本を購入して読み、情報を仕入れて次回の受診に臨んだ。

「手術は問題なく受けられます。保険が利く単焦点レンズでいいですね。焦点は、遠・中・近から選べるんですが、あなたの場合は『中』でいいでしょうね。点眼薬をお出ししますので、手術の3日前から指示通りに点眼してください」

 3週間後に手術を受けることになり、帰宅した。手術を受けることは納得していたが、今度は単焦点レンズの焦点が本当に『中』でよいのかが心配になった。『遠』は車の運転に適しており、手元を見る時には老眼鏡が必要。『近』はパソコンやスマホ、読書に適しており、車を運転する際には遠用メガネがいる。クリニックで勧められた『中』を選ぶと、テレビや人との会話にメガネは不要だが、車を運転する際にもパソコンやスマホを見る際にも、それぞれメガネが必要になる。遠近両用メガネが1つあれば事足りるのかもしれないが、万が一忘れたり、壊れたりした場合には相当な不便を強いられるのではないだろうか。